2017/07/01
真昼の光の中、垣間見えるもの / Simple Use Film Camera かっこいいひねくれカメラ




「森で木が倒れるとき、その音を聞くものがいなかったら、そもそも音はするのか」
ロバート・J・ソウヤーのSFミステリ「ゴールデン・フリース」に出てきた一節。移民宇宙船の航行途上で船内のコンピュータが乗員に対して殺人を犯す話で、語り手を当の犯人のコンピュータが勤める形の倒叙タイプのミステリだ。犯人は最初からコンピュータだと分かっていて、船内のすべての情報を犯人であるコンピュータが制御している中で、探偵役の主人公がどうやって真相に迫っていくのかが読ませどころとなる。今のところ半分ちょっとすぎくらいまで読んだけど、ミステリとしての出来はいまひとつ、真相を巡ってのコンピュータとの騙し合いのような展開にはなってない。どうやらコンピュータが犯した犯罪の動機にとんでもないものが用意されてるようで、この辺りの意外性でミステリ的な興味のすべてを納得させようというような趣向らしい。
まぁそれはともかく、こういうお話のなかに上の一節が出てきた。設問としては形を変えていろんなところで見るような類のものかもしれない。物語のほうの主人公はこの問いかけに対してYesという答えだったけど、わたしはどちらかというとそんな音は存在しないと考える。
シュレーディンガーの猫っぽい世界のほうが流動的で面白いと思うほうだし、誰が聞いていようがどうしようが、そんなこと関係なく音がするというような世界は固定的で静的すぎて退屈だろう。観察者の存在によって世界は始めて固定化される。観察されない世界はYesもNoも重なり合ったどちらともつかないものとしてある。それは一体どんな世界なんだと想像すれば眩暈を起こしそうなほど不思議な世界となるだろう。
何かね、ゴールデン・フリースのこの件を読んでるときに写真のことを思い合わせてた。写真も対象と対峙し見ることで目の前にあるものとそっくり重なってはいるものの何か新しいものを生成させ引き出して一枚の絵を作ってるんじゃないか。観察すること徹底的に見ることで垣間見えてくるものがあると信じるから写真機を持って街に出かけようとしてるんじゃないか。
観察されなければ、徹底的に見られなければ存在を顕現しようとはしない何か。そんなのが、それだけとはいわないけれど写真を撮る有力な動機、対象になるんだろう。
逆に世界には未だに観察されない、徹底的に見られなかった何かが層を作ってそこらじゅうを埋め尽くしてるなんて考えると、世界は発見されていない宝の山の中にあるとも考えられて、何だか楽しくなってくる。
嵯峨野で撮ってはいても観光地には立ち寄る気にはなかなかなれない。と云っても一応はその辺りまで足を伸ばしはするんだけど結局シャッターを切らずに戻ってくるっていうような撮り方をしてる。せっかくだから竹林の道なんていうところも行ってはみるんだけど、ちっとも写そうという気分になれない。
で、嵯峨野に行っては特に嵯峨野でなくても良いような街の写真ばかり撮ってきてるんだけど、撮ってきた自分の写真を眺めてるとやっぱりこういう普通に見える場所を撮る時には審美眼のようなものを問われてるんだろうなぁと思うこともある。
少し顔をのぞかせているものっていうのも気を引く対象かも。その向こうに何かここからは見えない世界があるって言うような予感、そういう含みがあるのが何だか楽しい。

2017 / 06
嵯峨野
Nikon F100 / Olympus Pen EES-2
Fui業務用400
☆ ☆ ☆
最近こういうカメラを買った。


今すぐには使わないからまだ封は切ってないけど、ロモが発売したレンズ付きフィルム。要するにロモ版の「写ルンです」だ。黒地にオレンジのロゴがパンキッシュで、無茶苦茶かっこ良く見えて衝動買いしてしまった。アナログマッドネスなんていうフレーズもいい。モノクロはこういう外観なのに、カラーフィルムが入ったほうはボディに色が入ってこれほどかっこよくはなかったので、あくまでもこのモノクロタイプのがお気に入りだ。
もう一つ好奇心を刺激されたのは写ルンです同等のものとして発売されながら、フィルムの入れ替えが出来るようになってるということ。よくシンプルなカメラを写ルンですのように使えるとか表現したりすることがあるけど、これは写ルンですのように使える写ルンですそっくりのカメラといったところか。フィルム交換が出来るレンズ付きフィルムってかなりひねくれた存在で面白い。
一応フィルムの交換は感電注意の但し書きつきで自己責任ということになってるけど、やり方はロモのページに堂々と紹介してあった。
Simple Use Film Camera (レンズ付きフィルム) 詳細な使い方をご紹介
今のところアマゾン、ヤフー、楽天と、どこを覗いても扱ってないようで、ヨドバシカメラなんかにもおいてなかったから、結局ロモのウェブショップで注文することになった。送料が高くてここで買うのは嫌だったんだけどなぁ。アマゾンに置いてくれないかな。
ロモのショップでは結構売れてるようで頻繁に入荷待ちになってる。
ちなみに写ルンですのほうは一台、10枚ちょっと撮って、今撮影の真っ最中だ。ここにきて雨の日が続いてるから、濡れても気にならないカメラは持って出るにはちょうど良い。
ソウヤーのSFって昔読んだときは凄い面白い印象があったんだけど、今読んでる気分は、あれ?思ってたほど面白くないっていうのが正直なところかなぁ。これもミステリ風の発端で一応ミステリとして進んでは行くんだけど、半分すぎても主人公はコンピュータを疑うことすらしないで探偵らしい行動に向かわないし、犯人のコンピュータが好き放題にやってるだけの展開が続いてる。しかも動機は完全に隠されてるから、一体何がやりたいのかさっぱりわからないままに、犯人であるコンピュータの行動を見物させれらることとなる。謎を小出しにし、ところどころでひっくり返して驚かせつつ、興味をひっぱっていくようなところもほとんどない。J・P・ホーガンの「星を継ぐもの」辺りの強烈なミステリ趣向を期待してると、完全に肩透かしを食らうと思う。
元々倒叙ものが好きじゃないっていうのもあると思う。最初から犯人がわかってるってもうそれだけで読む気力の半分くらいは失ってるもの。