2008/12/12
【洋画】 ビートルジュース
わたしは絶対にカブトムシのジュースが出てくる映画だと思っていたのに、このグロテスクなタイトルは主人公並みに目立ってる脇役の名前「ベテルギウス」を言い間違えた言葉だというだけで、残念ながら映画の中に「カブトムシのジュース」が出てくるわけじゃなかったです。映画は1988年のアカデミー賞でメイクアップ賞を受賞。ちなみにアメリカでは結構なヒットになったようです。
監督はオタクで名を馳せるティム・バートン。ティム・バートンとしては長編第2作目で、出演者のウィノナ・ライダーとともに、メジャーになるきっかけとなった作品です
ティム・バートンといえばジョニー・デップと、わたしの頭の中に公式のようなものが出来上がってるんですが、この映画ではジョニー・デップは登場しません。こちらはマイケル・キートンとのコンビ、つまり後のバットマン・コンビの作品になってます。
ホラー・コメディなんですが、コメディ的というよりは、奇想で成り立ってることに惹かれるような映画でした。
☆ ☆ ☆
とある田舎町、アダム(アレック・ボールドウィン)とバーバラ(ジーナ・デイヴィス)は丘の上にある広い邸宅に住んでいた。不動産屋が2人で住むには広すぎるから売ってくれというほどの邸宅で、アダムはその広い屋根裏部屋に自分の住む町のミニチュアを作り上げていくのが趣味だった。
模型つくりの材料を買うためにバーバラと一緒に町の金物屋に寄った帰り、アダムとバーバラが乗った車は橋の上で事故を起こして河に落ちてしまい、アダムもバーバラもその事故で死んでしまう。
ずぶ濡れで我が家に帰ってきた2人は、今度は外に出ようとすると屋外には砂漠のような不気味な世界が広がっているだけ、数歩進んだだけで砂漠にいるサンドワームに追いかけられるので家の外には出られないような状態になっているのを発見する。
自分たちの身に何が起こったのか最初は解らなかったが、部屋に「新しく死者になった者へのガイドブック」というタイトルの本が置いてあるのに気づき、これを見て2人は自分たちが橋の事故で死んでしまったことに漸く思い至ることになる。
いつも家を売れと迫っていた不動産屋は2人の事故死を機に家を売り払ってしまい、やがて新入居者がやって来ることになった。
新しく住人になったのはニューヨークのスノッブな一家チャールズ(ジェフリー・ジョーンズ)と彫刻家のデリア(キャサリン・オハラ)そして娘のリディア(ウィノナ・ライダー)の3人と、いつも一緒に行動してるインテリアデザイナーで超常現象の専門家オットー(グレン・シャディックス)の計4人。
自分たちの城に他人が乱入してきたのが気に食わなくて、アダムたちはこの一家を追い出そうといろいろ脅したりしてみるが、幽霊となったアダムたちの姿はチャールズ夫妻とオットーには見えないようで、いくら脅しても全然効果がなかった。
死後の世界のカウンセラー、ジャノー(ヘレン・ヘイズ)に相談してみると、そういうことを専門に扱うバイオ・エクソシストのビートルジュースというのがいるが、トラブルを起こすだけなのでビートルジュースに頼ってはいけないということだった。
なぜかリディアにだけはアダムたちの姿が見えて、リディアとは仲良くなるのだが、チャールズ夫婦は幽霊の存在にも気づかないまま、ニューヨークの友人を夕食に招待する。
その席で自分たちの存在を知らそうと、チャールズ夫妻らを操って夕食の席で無理やり「バナナ・ボート」を踊らせるのだが、一行は怖がって家から逃げ出すどころか幽霊をネタに商売が出来るという方向に関心が向く結果となった。
追い出し作戦が見事に失敗して、自分たちの手ではどうしようもないと判断したあげく、バイオ・エクソシストに人間の追い出しを依頼するために、制止されていたにもかかわらず、アダムたちはビートルジュース(マイケル・キートン)に頼ることにした。
呼び出したビートルジュースは予想をはるかに超えてお調子者で下品極まりない。
やることなすこととにかく調子外れで破格というとんでもない人物(幽霊)で、やがて丘の上の邸宅では生者と死者とバイオ・エクソシストが三つ巴で絡み合う争奪合戦が始まることになった。

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☆ ☆ ☆
わたしはティム・バートンの映画を観ると、全体の仕上がりはいささか冗長なんだけど、細部は異様に凝っていると、そういう印象を受けることがたまにあります。
物語を支える世界観から始まって、その世界観を具体化するために実際に画面に登場するイメージまで、細かい部分にも趣向を凝らし精緻に仕上げることに全力を注いでいるんだけど、お話そのものは結構だらだらと続いていくというか。
ティム・バートンはひょっとして物語全体をコントロールして緩急自在に語ることにはそれほど関心がないんじゃないかと、そういうことを考えたりします。
この映画も正しくそんな感じでした。ただし物語のテンションは高いんですけどね。
そういうことが端的に現れてたのが、死者の世界の役所だと思うんですが、かなり風変わりで悪趣味なティム・バートン風味のイメージで飾られてる役所のなかを進んで、アダムたちがカウンセラーに会いに行くシーン。ちなみに廊下のデザインはあの歴史的なホラー映画、カリガリ博士!
アダムが腰掛ける待合のベンチに座って順番待ちしてるのは異様な死者ばかり。この辺りのほとんどモンスターともいえる死者のキャラクターは、公開当時この映画の宣伝に頻繁に使われていて、観れば思い出すようなモンスターも絶対にいると思うんですが、映画を観てみるとこういう異様なキャラクターのほぼ全員が、映画が終わるまで役所の待合のベンチにただひたすら座ってるだけ、座って自分の番が来るのを待ってるだけなんですよね。
88年当時はまだ特殊メイクの全盛だったと思うので、そういうメイク技術や造形技術を駆使して仕上げた、若干安っぽくはあるものの凝った作りのモンスターたちが、せっかく画面に登場してるのに、邸宅争奪戦という映画の主軸には全然絡んできません。物語はそっちのけで、見た目面白いモンスター風の死者が並列的に並べられるだけです。

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☆ ☆ ☆
もう一つ、またこれはちょっと意味合いが異なるんだけど、有り方としてはよく似てるなぁと思ったのが、アダムとバーバラの幽霊夫妻とビートルジュースの関係でした。
この映画、タイトルが「ビートルジュース」となってるし、マイケル・キートンが熱演するビートルジュースの見た目も物凄いので、下品な扇動家ビートルジュースがとにかく前に出てくる主役かと思うんですが、主役にしてはこれがまた意外なほど登場シーンが少なくて、結局ビートルジュースはどちらかというと脇役に近い扱いなんだと解ってきます。
新しく侵入してきた人間を追い出したいという、そもそもこの物語が動き始めることになる動機はビートルジュースにあるんじゃなくてアダム幽霊夫妻の側にあります。
ところが、物語を動かしていく主役の立場は明らかに幽霊夫妻の側にあるのに、この幽霊夫妻が映画の中では一番地味で目だたない存在になってるんですよね。人を脅かすために顔を化け物風に変形させるシーンはあるものの、幽霊メイクを一切しないので、映画が終わるまで本当にただの人にしか見えない。はっきり云って死んでる人にも見えないです。
それに反してビートルジュースは実際の出番は少ないのに、見た目が映画の中で一番派手、一番態度がでかい。画面に出てくればかならず視線を独り占めにしてしまう。
どうも、キャラクターへのウエイトのかけ方がちぐはぐで、妙に居心地が悪いというか、はぐらかされてるような気分になるところがいくつかあるんですよね。
☆ ☆ ☆
映画に登場する様々なイメージは「物語」という中心に関わらなくてもそれほど気にしないという感じでスクリーン上に溢れてるし、登場人物も何処か物語をはぐらかすような動かし方に見えるところもあって、いろんなものがおもちゃ箱をひっくり返したみたいに、そこらじゅうに散らばってるような雑然とした感じの映画になってます。
コメディ部分も、そういう全体の冗長さを共有してしまって、わたしにはあまり面白いとは思えなかったです。
霊界の様々なものからデリアの妙な彫刻まで、細部はカラフルで異様なイメージに満ちていて、豪華で楽しい映画です。特殊メイクにクレイアニメーションを混ぜるような、ティム・バートンの風変わりなヴィジョンを堪能できます。でも映画が面白いかといわれると、これがまた微妙に面白くないんですよね。
だからわたしにとって「ビートルジュース」は「面白くないけど楽しい」映画という、ちょっと妙な印象のものとなってます。
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アダム夫妻の幽霊の設定についても少しだけ。この映画での幽霊の設定は結構風変わりです。
この映画でアダムたちの幽霊がチャールズらに見えない理由は、幽霊はそもそも人間には見えない存在だからという単純なことじゃなくて、特殊なものや常識から外れた異様なものを無視して見ようともしない人間は、幽霊のような常識外れのものは、本当は見えていても見えないもの扱いにしてしまうからという設定になっています。
そして、継母に馴染めなくて、一歩身を引いた様な場所に居場所を構えてしまってる、はぐれ者のようなリディアだけが、自分が例外的であるから、同じく例外的なアダムたちを見ることができるんだと。
わたしは観ている間中これはティム・バートン自身のことなんだろうなと思って画面を眺めてました。
自分の持ってる特異なヴィジョンが、意味あるもの、価値のあるものとしてなかなか認知されないと。
そういう意識があって、見ようと思えば本当は見えてるんだけど、見ようともしない人間には見えないものとして扱われる幽霊という、かなり捻った設定が出てきてるんじゃないかと思いました。
ただこの映画の中でウィノナ・ライダーが演じたはぐれ者リディアは明らかにティム・バートンの化身だと思いますが、リディアこそが幽霊を見ることができる唯一の存在にすることで、家族からはぐれてるような否定的な意味だけじゃなくて、同時にそれこそが個性なんだということも担わされてる二重構造のキャラクターだったような気がします。
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この映画のウィノナ・ライダーがとにかく良いです。若々しくてとても可愛い。後に万引きするような人になるとは到底見えません。ビートルジュースは例外として、アダム夫妻は最後まで死者にも見えないただの人だから、この映画の中で一番幽霊に見えてたのは、黒尽くめでゴシック・メイクをして、いつも人の視野の外縁に佇んでるようなウィノナ・ライダーでした。ひょっとしてこの映画はウィノナ・ライダーを見るための映画だったのかも。

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アレック・ボールドウィンとジーナ・デイヴィスは、やはり印象が薄いです。
結構目立ってたのがインテリアデザイナーのオットー役のグレン・シャディックス。肥満体で艶々した肌、構築的なヘアスタイル。デヴィッド・リンチの映画にでも出たら似合いそうな人でした。声優もやっていて、どうやら声優としての方が名が通ってそうな感じの人です。
一番派手なビートルジュースはどうかというと、あそこまで型破れだと、ただわめき散らしてるだけでも形になりそうな気がするんだけど、そういう風に思わせるのも、それが自然に見えるように演じたマイケル・キートンの技量の結果ともいえそうな感じもします。
ただこれがのちのバットマンだということに思いを馳せたら、そういうことに関しては、なんだか妙に笑えました。
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この映画は吹き替えで見たほうが面白いです。DVDでビートルジュースの吹き替えをやったのが西川のりお。
口を合わすことなんかまるっきり無視して、関西弁でまくし立てるビートルジュースの方が、妙にこなれてない字幕よりも絶対に笑えると思います。
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Beetlejuice Trailer
BEETLEJUICE O Day Banana Boat Song Harry Belafonte
アダム夫妻が侵入者家族を操って、ハリー・ベラフォンテのバナナボートに合わせて間抜けな踊りを躍らせるシーン。この映画のコメディのタイプはこういう感じのものです。長すぎる…。
原題 BEETLEJUICE
監督 ティム・バートン(Tim Burton)
公開 1988年