2009/03/28
【洋楽】 Passion and Warfare - Steve Vai
今回のアルバムはメタル的なプログレッシブ・ロックということで、実は普段ほとんど聴かない、本来的にはわたしの守備範囲外の類の音楽なんですが、演奏してるギタリスト、スティーヴ・ヴァイはギタリストの有り様としては気に入ってる部分があり、守備範囲外のジャンルではあるものの好きな曲が入ってるアルバムでもあるので取り上げてみることにしました。スティーヴ・ヴァイは以前に記事にしたエリック・ジョンソン同様に、超絶技巧で名を馳せるギタリストの一人です。
ただしギターを持ってギターを弾いて音を出してるからギタリストに違いはないのだけれど、そこから音を導き出したり、音を組み立てていく発想の中には自分が抱えて演奏してるギターそのものにそれほど依ってないようなところがあって、そういう部分がユニークであり、そのユニークさの点で他の超絶技巧派のギタリストとは異質で独自の立ち位置を確保してるミュージシャンだろうと思います。
エリック・ジョンソンつながりで云うなら、エリック・ジョンソンと同様、ジョー・サトリアーニの主催する超絶技巧ギタリストの集い「G3」に参加してることでも知られています。
1960年6月6日、6が並んだ日のニューヨーク生まれ。スティーヴ・ヴァイが楽器に触れた最初はギターではなくてオルガンだったそうです。そしてそこからアコーデオンを経て、ギターに辿り着きます。
アコーデオンからギターへってどうにも脈絡のない転進に見えるんですが、おそらくその時のロックの隆盛、年齢から言うとハードロック周辺の音楽に感化された結果だったんでしょう。Led Zeppelin?構築的なギター・サウンドっていうことから、ジミー・ペイジ辺りに相当影響されてるような気もします。
学校はバークリー音楽大学に行ってるんですよね。きちんと音楽の基礎教育を受けてる。
そのせいなのか、ヴァイの出発地点はバークリーに在学中に異能のギタリスト、フランク・ザッパに雇われたことなんですが、その時の雇われた仕事というのが、ギタリストじゃなくて、ザッパのギターを楽譜に起こすこと、採譜係だったそうです。採譜が出来るというのは、かなり耳と音感が良かったっていうことでもあります。
1980年の卒業後、この採譜の縁で今度はギタリストとしてザッパのバンドに参加、そこで4年ほど在籍した後、1984年にソロデビューのアルバム「Flex-Able」を出すことになります。
その後、同じく超絶技巧派のギタリスト、イングヴェイ・マルムスティーンがバンド、アルカトラスから脱退した穴埋めに抜擢され、軽々とその代役をこなして、驚異的なテクニックのギタリストとしての知名度を上げていきまず。
さらに1989年には元ディープ・パープルのデイヴィッド・カヴァーデイルのバンド、ホワイトスネイクにギタリストとして参入します。
ホワイトスネイクのワールドツアーに参加するのと同時進行でこのアルバム「Passion and Warfare」のプロモーションも開始して、ホワイトスネイクに関してはワールドツアーが終わると同時に脱退してしまうんですが、翌年発売になったこのアルバムはワールドツアーでのプロモーションが成功したのか大ヒットを記録することになりました。
☆ ☆ ☆
スティーヴ・ヴァイの演奏スタイルは一言で云うなら、自由奔放、これに尽きるんじゃないでしょうか。
やること、やろうとしてることにほとんどリミッターがかかってないような感じ。ギターって云う楽器のテクニックを極めていって、その果てにギターという楽器の完璧な演奏形態を模索するというような求道的な方法だけじゃなくて、スティーヴ・ヴァイはギターという楽器がそのなかにどういう音を潜在的に秘めてるのか、それを導き出し明るい場所に引き出すためには、従来的なギターからギター的な音を弾き出してくるテクニックなんか無視しても構わないとでも云ってるようなアプローチの方法も取ってきます。
その結果としてアルバムの中には非常に多彩な音が詰め込まれることになります。このアルバム「Passion and Warfare」も例に漏れず、音色的に極めて多彩なギターサウンドが聴ける仕上がりになっています。当時のギターフリークはこれを聴いて吃驚したんじゃないかと思います。どうしたらこんな音が出せるんだろうって。
変化自在のギターサウンドを奔流のように繰り出してくるスタイルなんですが、その一方で音の形としては全体としてワウワウ系統のエフェクターを好んでるような感じがします。
これとトレモロ・アームを駆使して音から音へ糸を引いていくように繋がってる粘り気のある旋律空間を作り上げていくというか。この粘り感は極めて多彩なヴァイのギターの音に通低してる基本的な特徴かもしれません。
もう一つ、この人見かけは細面で神経質そうな印象なんですが、だからといって演奏は気難しい雰囲気のものかといえば、実は正反対でかなり遊び心のあるパフォーマンスに走ってる部分があります。
わたしはエリック・ジョンソンの時に、ギターの早弾きとか超絶技巧って音楽の演奏を見てるって云うよりも、曲芸に近いものを見てる感覚の方が強いって書きました。
そういう意味でいくと、スティーヴ・ヴァイは超絶技巧の演奏が見世物的であるのを充分に理解してます。演奏を見ればそれは直ぐに分かります。見世物的な要素を逆によく目立つようにパフォーマンスとして演奏に組み込んだりしてる。
だからこの人のライブはコケ脅かし的で、ユーモラスで面白いです。ライブを見てしまうとCDの視聴体験が結構大きな欠落感を伴って、物足りなさとして耳に入ってくるくらい、パフォーマンス性に長けた演奏で楽しませてくれます。
☆ ☆ ☆
曲目はこういうの。
1. Liberty
2. Erotic Nightmares
3. The Animal
4. Answers
5. The Riddle
6. Ballerina 12/24
7. For the Love of God
8. Audience Is Listening
9. I Would Love To
10. Blue Powder
11. Greasy Kid's Stuff
12. Alien Water Kiss
13. Sisters
14. Love Secrets
邦題はそのままカタカナ表記にしたものがあてられています。
1990年リリースの、スティーブ・ヴァイにとっては2枚目のソロ・アルバムです。
ギター中心のインストゥルメンタル・アルバムで、人の声としては台詞のような断片的な言葉が曲間などに混じり合っている部分がある以外では、歌もののような形としてはアルバムの中には入ってきてません。
ギター・インストゥルメンタル・アルバムって単調になってしまってほとんど成功しないんですが、これは先にも書いたようにヒットして大成功、いまではギター・インストゥルメンタル・アルバムの代表のような形になってます。
アルバム全体の音の印象はメタル系のプログレッシブ・ロック。さらに一曲一曲が何らかの形で結びついて全体で意味を成してるようないわゆるコンセプト・アルバムの形をとってます。この人のギターは必ずしもメタル系のギターそのものと云えるようなものでもないんですが、時代的な影響があるのか、これはメタル的な音楽性を下敷きにした部分が多い仕上げ方になってるような気がします。
コンセプト・アルバム的な部分から見るとプログレッシブ・ロックによく有りそうな意味を持たせすぎた大仰さというか、そういうものが全体を覆っていて、当時はどうだったのかは知りませんが、今聴くとこういうコンセプト・アルバム仕様といったものにちょっと古臭い感じを憶えます。
わたしのお気に入りは7曲目の「For the Love of God」、5曲目の「The Riddle」、3曲目の「Animal」辺り。
スティーヴ・ヴァイはアルバムの7曲目に必ずバラード、ラブソングを収録していて、各アルバムの7曲目だけ抜き出して一枚のアルバムに纏めた「The 7th Song Enchanting Guitar Melodies - Archive」というコンピレーション・アルバムもリリースされてます。
どうも「7」という数字に特別の思い入れがあるらしく、ラッキーセブンなんていう単純なものでもないんでしょうけど、テクニカルな側面よりも情緒的なものを特化させた曲を並べる指定席に相応しい数字としてるようです。
「For the Love of God」の曲調は、西洋人が感じる中央アジア辺りをイメージした異郷風の旋律という感じなんでしょうか。
結構映像的な音楽で雄大な光景が目の前に広がっていくような感じの曲です。そういう雄大な世界を渡っていくヴァイのうねり感のあるギターの音が、極めて官能的。
今書いてみて改めて思ったんですけど、この曲のキーワードは「官能的」、これ以外に無いでしょうね。
「The Riddle」はミディアム・テンポの、曰く云いがたい曲調の音楽なんですが、一体何処に着地しようとしてるのかさっぱり分からない、ぐねぐねとのたうちまわるようなギターの旋律が面白いです。
「The Animal」これもミディアム・テンポくらいのあまり早くないリズム。ハードロック的な展開で進みます。スロー気味のテンポなのに途中から始まるギターのソロが結構奔放に弾きまくっていて、対比が楽しい曲。
反対にもうひとつだったのが、8曲目の「Audience Is Listening」のような曲。これ前半は曲じゃなくてスティーヴ少年がギターを持って学校に通ってた頃の日常風景です。先生との会話があってそれに答えるスティーヴ少年の返事が全部ギターの音で表現されてます。いわばトーキング・ギターといったものです。ちなみにこれのPVはそのまま映画の一コマみたいに学校の先生と会話してるシーンだったりするので、逆に云うとアルバムに収められてるのはPVのサントラ風に考えることも可能です。
曲の演奏中にヴァイが弾いてるギターは饒舌でうねうねとしたフレーズが多いので、実はそのままトーキング・ギター的といっても良いんですが、だからといって人の会話の片方をギターの音で代用するって言うアイディアは、ダサいんじゃないかと思います。
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これだけ奔放に弾くギターではあっても、その場の感情に身を任せて弾いてるんじゃなくて、実はヴァイはほとんどアドリブはやらないんだそうです。アドリブでこなそうとするとスケールの羅列になったり手癖で弾いたりといったことが多くなるので、演奏の多彩さ、曲の構築度を保障しようとすれば、綿密にスコアで組み上げていく方法がもっとも相応しいと判断してるのかもしれません。
アドリブをやらない、決まった演奏に終始するという点でスティーヴ・ヴァイの音楽を「心がない」と評する人もいるらしいんですが、わたしにはこういう方法で実現する「精緻に組み上げられた奔放さ」のようなものが、スティーヴ・ヴァイの音楽の面白さなんじゃないかと思います。
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For The Love Of God - Steve Vai
2005年にThe Holland Metropole Orchestraと共演したライブ演奏の「For The Love Of God」です。
このアルバムに入ってる元の「For The Love Of God」にはエレクトリック・シタールというこれまた奇妙なものが混さりはするけど、オーケストラは使わないで完成した曲でした。
このビデオを見て最初は未だにロック畑のクラシック・コンプレックスでもあるのかなと思ったりしました。昔はオーケストラと共演となると、ロックっていかがわしい音楽じゃなくてオーケストラとも共演できるんだと云いたげな、オーケストラを権威付けに使ってる感じがあったので、これもそうかなと思って聴き始めたんですが、ヴァイのギターが入ってきた瞬間から、ギターが完全にオーケストラを従えたような感じになって、オーケストラを使うことの付け足し感はほとんどなくなってしまいました。このアルバムのバージョンに較べても色彩感が豊かな演奏になってるようです。
それで特筆すべきはやっぱりスティーヴ・ヴァイのパフォーマンスで、ケレン味のある動作や見世物的いかがわしさが面白いです。もうギターが入る前に舞台で立ったまま手で小さく拍子を取ってる段階からパフォーマンス臭が濃厚に漂ってきて、演奏中は見得を切るような動作をはさみながらのギタープレイに、極めつけのトレモロ・アーム大回転!
こんなことこの人しかやりません。
The Riddle - Steve Vai
ぐねぐねとのたうつ変態的なフレーズのてんこ盛り。変な曲としか云い様が無いです。
The Animal - Steve Vai
この曲はライヴではアドリブで演奏する数少ない曲のひとつだそうです。ハードに始まるものの、ベースソロの後くらいからはバックのリズムがかなり押さえ気味になってギターのソロを際立たせていく感じになります。知らない間にギターのプレイに注視してるのに気づいたりしますよ。
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