2008/10/06
【洋画】 ファーゴ
映画自体は淡々と進んで、観ている意識のある部分は退屈だと信号を送り込んでくるのに、結局最後まで緊張感を持って観てしまうという不思議な映画でした。☆ ☆ ☆
自動車ディーラーのジェリー・ランガード(ウィリアム・H・メイシー)は多額の借金を何とかしようと、妻ジーン(クリスティン・ルドリュード)の偽装誘拐を思いつく。そこで自動車業界の大物であり金持ちでもある妻の父親ウェイド(ハーヴ・プレスネル)から身代金を取って、借金を返す計画を立てた。
自社の整備工場の工員から、カール(スティーヴ・ブシェミ)とグリムスラッド(ピーター・ストーメア)の2人を紹介されて、偽装誘拐を依頼する。
カールとグリムスラッドは白昼、誘拐を実行し成功するが、移動途中の雪道でパトロールの警官に止められ、上手くやり過ごすつもりが言い逃れ出来なくなって、その場で警官を射殺、運悪くその現場を通りかかった車に乗っていて、警官を始末しようとしてるところを目撃した人間も合わせて3人殺してしまった。
簡単な偽装誘拐が殺人事件に変貌してしまい、警察が動き始める。捜査に当るのは妊娠中の女性警官マージ・ガンダーソン(フランシス・マクドーマンド)。マージは手がかりを丹念に追って、次第にジェリーへと迫っていく。
カールとグリムスラッドは痕跡を残しながらも逃亡を続けるが、隠れ家で誘拐したジーンを殴り殺し、偽装だと分かってるジェリーの制止を振り切って勝手に金の受け渡しに来た義父ウェイドをその場で射殺。グリムスラッドは金を受け取ってきたカールに分配のことで罵られ、仲間のカールさえも殺してしまう。
☆ ☆ ☆
特徴は雪で覆われたひたすら白いトーンの画面と、やはり脚本の上手さというところでしょうか。
ただの偽装誘拐のままだったら誰も傷つかないはずだったのに、警官と目撃者を殺してしまったことで事態は大きく変動するわけですが、この映画の中で大きな出来事が起こるのって、終盤の破局以外ではほとんどこの部分だけなんですよね。
しかもこの出来事が起こってしまう直接的な原因はカールが逃走用の車にナンバー・プレートを付け忘れていたという実に些細なこと。そのせいでパトロール中の警官に呼び止められる。
この些細なことが始まりで最終的には壊滅的な破局へと導いていくわけです。
この映画は大掛かりなイベントが物語を動かしていくというような形をとってません。偽装誘拐が殺人事件に変化してからでも、それは同じ。
警官の会話さえもどこかのんびりしてるくらい、日常的な会話や日常的な行動の範囲内で物語は進んでいきます。そういう劇的でも無いシーンが展開されていくうちに、細かい齟齬のようなものが積み重なって、首謀者ジェリーが確実に追い詰められていく様子が、誰の目から見てもはっきりと分かるように仕上げられてる。
事態が激変するほどの大きな出来事を用意して、追い詰められていく過程を描写するのはある意味簡単で、逆に日常的にことが進む中でのちょっとした行き違いや行動の不自然さで、事件が動いていく様を明確に描き出すのは遥かに困難なやり方だと思います。
「ファーゴ」はその困難なやり方をかなり上手い手捌きで披露してくれます。
映画の冒頭でこれは実話だという一文が入ります。
取るべき理想の破滅に向かって、きれいな形を描いて進んでいく映画を観ていて、実際にもこんなに均整が取れたように進行した犯罪があったんだと感心してたら、後になってコーエン兄弟はこれが実話だと云ったのはでたらめと白状してたみたいです。
あまりに手捌き良く、きれいな形で進行し、この物語が取る結末としては、これ以外に無いような滅亡の形で終わる話になってしまったので、少し現実感を加えたかったんでしょうか。
全編何かといえば雪景色という画面は、かなり印象に残りました。撮影したのはロジャー・ディーキンズ。
白一色みたいな光景ばかりなのに、それぞれのシーンのニュアンスを込めたような形で、上手く活写してます。雪に映える他の色もきれいに捉えてるし、雪の白さの様々な様子もきちんと押さえてるようでした。遠近感さえなくなってしまうような光景ばかりで、撮るのに苦労したでしょうね。
☆ ☆ ☆
俳優はなんと云ってもスティーヴ・ブシェミ。最初の会合で、遅れてきたジェリーに対して品定めするみたいに眺めながら、声高でも無い口調で問い詰める態度からして、もう存在感満点です。なにをやるにしても目一杯の破格具合で、あの最後だってブシェミにしか似合わないと思います。
カールを目撃した人全員から、特徴として「変な顔」と云われてたのは、ちょっと笑いました。
ピーター・ストーメアのほとんど喋らない、隠れ家でテレビばかり見てるキャラクターも上手くはまってました。映画全体にそれぞれの言葉が上手く伝わらない感じがあったので、そういうコミュニケーション不在を示す映画としては、その意図を体現してるキャラクターじゃなかったかと思います。
そもそもの発案者役のウィリアム・H・メイシーは、この人観るたびに猿顔だなと思ってしまって、わたしとしてはちょっと苦手な俳優です。
それに大人の顔なのにやたらとでかい目が子供に近いようなバランスで付いてたりするのが、何かの人形みたいに見える時も。
偽装誘拐を企てるほど知能的かといえば、事件が拡大するにつれその場しのぎの対応ばかり繰り返し、次第に狭まってくる包囲網に有効に対処するほどの知恵もなく、そのまま逃走してしまうような人物を演じるには、割と相応しいという感じはしてました。上手いキャスティングだったかも。
フランシス・マクドーマンドは、これでアカデミー主演女優賞を取ったらしいんだけど、わたしには正直そこまでのものには見えなかったです。
妊娠中の警官で、割と暢気に会話したりするので、物語全体に緊張感がつき過ぎないようにする役割もあったような感じ。でも、あまり気づかないかもしれませんが、結構タフな描写もしてました。
マージの旦那役で出てたジョン・キャロル・リンチも異様な俳優ですね。最近だと「ゾディアック」に出てたのを見たかな。
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Fargo Trailer
原題 Fargo
監督 ジョエル・コーエン
公開 1996年
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