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【洋楽】 Concert By The Sea - Erroll Garner

ピアニスト、エロール・ガーナーによって、カリフォルニアの港町カーメルで行われたコンサートの記録です。

先日四条河原町のファッションビル「オーパ」9階にあるタワーレコードをうろついてる時に、このCDがジャケット面を表にして飾ってあったのをみて、今の時期にぴったりかもと思ったのが今回取り上げる切っ掛けになりました。このアルバムには秋に似合わなければ一体何時が似合うんだと問い詰めてもいいくらいお似合いの超有名曲、「枯葉」が入ってるんですよね。
しかもいろんな「枯葉」の演奏がある中で、わたしはこのコンサートでの「枯葉」の演奏がことのほか好き。
このコンサートでエロール・ガーナーが演奏した「枯葉」は他の演奏者だとあまりこういう演奏はしないんじゃないかというような、ある意味ちょっとユニークな仕上がりになっていて、そこがわたしにとっては非常に面白いところだったりします。

オーパ9階 タワーレコード

店内

棚


しかし実はこのアルバム、「枯葉」が大好きと云ってる割に、わたしのなかではかなり長い期間聴いてない類のCDの扱いになっていて、タワーレコードで偶然目にするまではほとんど忘れてました。そういう扱いになってたものが久しぶりに目の前に現れたので、ちょっと懐かしさもあって店頭で見つけた時にはしげしげと眺めたりしてみることに。
それで眺めて程なく気づいたんですけど、タワーレコードで見つけたこの「Concert By The Sea」のジャケット、波が打ち寄せる岩場の海岸に、両手を天に向かって広げ何かを謳歌するような女性をあしらってるというデザインのCDジャケットなんですが、棚に正面向けて置いてあったものはわたしが持ってるCDとは微妙に違うものを使ってました。

実際見比べてみると結構違ってるんだけど、絵を構成するコンセプトが全く一緒だったので、店頭で見つけた最初の瞬間は違ってることにあまり注意が向きませんでした。

わたしが所有してるCDをスキャンして並べてみると、こんな具合です。
上のがわたしが持ってるCDのもので、下のが店頭で見たもの。

concert by the sea front

concert by the sea front 2



家に帰ってから調べてみると、どうやら今店頭に置いてある下のデザインの方がオリジナルのレコードジャケットに使われてた写真のようでした。でも、岩場の海岸線と画像左下付近に何かを謳歌するような女性をあしらってるという、ほとんど同じコンセプトのデザインなのに何故2種類も用意したのか、これがわたしには全く意味不明。最初に使った画像で何か気に入らないところでもあったのかもしれないけど、どこが駄目だったのか、わたしには分かりません。

☆ ☆ ☆

わたしが持ってるCDのジャケットの方をもとに話を続けてみると、直接演奏者の写真なんか使われてないけれど、全体的に開放感とどこか喜びの感覚に満ちているような感触があって、絵柄としてはそれなりに見栄えのするものになってるように思えます。エロール・ガーナーのピアノが陽気で、音楽の幸福な時間を紡ぎだすことだけに熱中してるような演奏なので、エロール・ガーナーの写真なんか出さなくてもその音楽の本質を表現してるジャケットだとも云えるのかもしれません。

ただそれでも一つだけ以前からちょっと違和感があるところがあって、それはどこかと云うと、左下の女性のイメージなんですよね。
わたしの持ってるCDから一部拡大してスキャンしてみるとこんな感じ。

コンサート・バイ・ザ・シー 女性

この女性なんですけど、何だかヒッピー風に見えませんか?
わたしにはそう見えます。60年代中~後期、70年代初頭にかけてくらいの典型的なファッション。
それでこのCDの場合、明るさに満ちたエロール・ガーナーの演奏と、ヒッピー的な自由を謳歌するイメージが非常によく合っていて、わたしはこれを手に入れた当初、アルバム自体がヒッピーの時代のレコードのような印象を持ちました。
でも実際は60年代のレコードでも70年代のレコードでもなく、このコンサートが港町カーメルで録音されたのは55年です。実に半世紀近く前の録音なんですよね。
このジャケットがヒッピー時代のものだと云う印象を最初に受けてから、わたしの中ではこのジャケットから受けるイメージと実際の年代の間には感覚的な違和感が生じてしまうことになりました。
同じ図柄のイメージを2つ用意してるというのもそうなんですが、50年代のレコードに何故70年前後の時代を思い起こさせる女性が配置されることになったのか、これもわたしの中では未だに「謎」のままとなっています。

ただCDの音自体は半世紀前の録音とはいっても、どうもカーメルの教会として使われてる、かなり音響効果のいい施設(公会堂)で録音されたらしく、そういう条件がよかったのか今でもそれなりに聴ける音で収録されてます。

☆ ☆ ☆

エロール・ガーナーの音楽は上にも書いたように楽しく陽気で、幸福感と開放感に満ちた音楽と、ほとんど一言で云い切ってしまえます。眉間に皺を5~6本も寄せて、呻吟しながら聴くような音楽とは完全に無縁の場所で立ち上がってる。そういう側面を指して「演芸ピアノ」なんていう云い方で揶揄されることもあるんですけど、わたしにしてみれば演芸ピアノのどこが悪い?としか云い様がないです。
このCDの最後の曲「Erroll's Theme」で司会者がメンバー紹介した後にちょっとだけインタビューめいたものが入ってこのCDは終わるんですが、そのインタビューの中にエロール・ガーナー自身の声で「ルイ・アームストロング」の名前が出てきます。それにならうなら、エロール・ガーナーはその音楽を楽しむことに徹底した演奏で、ピアノのルイ・アームストロングとでもいえる存在じゃないかと思います。

1921年にペンシルバニアに生まれて、1977年1月2日に55歳で死去。結構若くして亡くなってます。
ちょっとキャリアを調べてみたんですけど、1944年にニューヨークに出てきて、割と早目にミュージシャンとしての居場所を見つけたようで、50年にコロンビアと契約してからソロであったり、トリオであったり、当時のサックス奏者であったチャーリー・パーカーらとも共演してレコードを残していったらしいです。
そしてそういうピアニスト生活を送ってるうちに、この「コンサート・バイ・ザ・シー」が大ヒット。
そのヒットが切っ掛けで、それまでは共演ミュージシャンの受けは良かったようですが、ごくありきたりのピアニスト扱いという範囲に留まってたのが、一般的にも一流のピアニストとして知られるようになりました。

演奏してる光景とか手の動きとか見てると俄かには信じがたいんですけど、著名なピアニストとして活躍したものの、実はエロール・ガーナーは正規のピアノ教育を受けていませんでした。3歳の時にレコードのコピーでピアノを始めて以降、ピアニストとして頭角を現しても、この人のピアノは全部独学。
さらにそれに加えて、楽譜の読み書きも生涯を通じて全く出来なかったそうです。よくもまぁそんな状態でピアノを習得していったものだと思うんですが、どうやらエロール・ガーナーはかなり良い耳と記憶の持ち主だったらしくて、正規の教育は受けなかったものの、そういう自分の特質を頼りに独自のピアノを形作っていったということのようです。

楽譜が読み書きできなかったということに関して、この人はスタンダード曲「ミスティ」の作曲者としても有名なんですが、この曲はニューヨークからシカゴに向かう飛行機の中にいるときにエロール・ガーナーに降臨して来たらしく、楽譜が書けないものだから降臨してきたメロディをその場で記録しておくことが出来ずに、帰宅するまでずっと頭の中で繰り続けて、帰って来てから大急ぎでピアノで弾いたものを録音してようやく記録することに成功したって云うエピソードが残ってます。この時エロール・ガーナーの音楽的な記憶力が並みの力しか持ってなかったり、飛行機の中から帰宅するまでの間にエロール・ガーナーの注意をそらす様な出来事が起こったり、誰かが執拗に話しかけるなどの邪魔をしてたら、「ミスティ」はこの世界に誕生してなかったかも知れないなんて思うと、この曲を聴く時に偶然が生み出した奇跡に似た何かが「ミスティ」とともに木霊の様に耳に届いてくるのも感じ取れるかもしれません。

☆ ☆ ☆

エロール・ガーナーがピアノの教育を一切受けなかったということは、ガーナーのピアノにマイナスに働いたどころか、ある種積極的な特徴を与えました。
この人のピアノの最大の特徴は「Behind The Beat(ビハインド・ザ・ビート)」と云われる独特のリズム感にあります。これがエロール・ガーナーのピアノに独特の臨場感を付け加えてます。
どういうものかというと左手のリズムよりも旋律を奏でる右手の動きが僅かに遅く出るという特徴。演奏上の一種の手癖です
こういう特長を持った演奏になったのは、一つにはガーナーが左利きだったということもあるんですけど、本式のピアノ演奏の訓練を受けなかったために左利きという癖も奏法上の矯正を受けなかったし、両手を同じタイミングで使いこなす基礎的なことも学べなかった結果だったんだろうと思います。
普通ならちぐはぐな演奏になってしまう可能性のほうが高いのに、エロール・ガーナーの場合はこのアンバランスさが結果的にはガーナーのピアノに非常に個性的なスウィング感、ドライブ感を付け加えることになりました。

左手は「ビハインド・ザ・ビート」という個性的なスタイルのもとで、左利きという特質がまともに出た、ストライド・ピアノ風の強力なビートを刻んでくるような弾き方を特徴としてたんですが、もう一方の右手の方はどうだったかというと、右手の演奏は力強さにあわせて、歌心とリリシズムに満ち溢れた和音や旋律を奏でていくようなスタイルでした。わたしはエロール・ガーナーの生来持ってるリリシズムは結構好きなほうなんですが、この辺りの力強さとしなやかさのようなダイナミックなコントラストもガーナーのピアノの魅力なんだと思います。

ガーナー1

☆ ☆ ☆

さらに演奏スタイルの特徴として、これは結構目立つと思うんですが、エロール・ガーナーは演奏中に唸ります。メロディに乗せて、その背後でメロディに同調するように唸ってる。このアルバムでも結構盛大に唸り声が聴こえてきます。
演奏中に唸るミュージシャンはピアニストでは割と見かけるような印象です。わたしが今思いつくだけでも、キース・ジャレット、バド・パウエル、セロニアス・モンク、クラシックならグレン・グールドとピアニストばかり頭に浮かんできます。ホーン奏者は口にマウスピースを咥えてるので演奏中に唸るのは不可能なんですが、それ以外の楽器で、たとえばギターなんか演奏しながら唸るのには絶好の楽器だと思うのに、唸りながら演奏する人ってあまり思いつかないです。カート・ローゼンウィンケルが旋律を口ずさみながらギターを弾いてるのを聴いた事が一度だけあって、その時に珍しいなぁと思ったくらいでしょうか。
なぜ唸るのか、本人でない限りその衝動は理解不能でしょうけど、頭の中に渦巻いてる旋律をピアノの鍵盤に移し変えていく最中に思わず声として出てしまうのか、ただ単純に声に出してしまうと楽しいからなのか。
一つ云えることはこのタイプの演奏家は自分が声を出すことが演奏にとって邪魔にはなってないと考えてるんだろうなと類推できることです。完成した音よりもその場で音を引き出してる行為の方が重要だと思ってるような感じ。でもなぜピアニストにこのタイプの人が多いのかはやっぱりよく分からないです。

☆ ☆ ☆

それと目立つ特徴としてもう一つ。
エロール・ガーナーは本当に楽しそうにピアノを弾きます。演奏中に鍵盤とその上の自分の手元を見てるよりも、演奏しながら楽しそうに客席を眺めてる時間のほうが多いんじゃないかという、そんな演奏スタイルのピアニストでした。ビル・エヴァンスのように深く俯いて沈思していくのとは全く正反対。客席の方に顔を向けてはニコニコしてる。
何だか客席に向かって「みんな、楽しんでる?」っていうようなことを語りかけてるようで、陽気で楽しい音楽を追い求めたミュージシャンの演奏スタイルとして妙に納得できたりします。

演奏中のエロール・ガーナーの動画があったので。曲はこのアルバムとは関係ないんですけど、演奏スタイルがどういうものだったかはよく分かります。
それにしても、チャーミングな演奏♪

Jeannine ( I dream of lilac time )


☆ ☆ ☆

アルバム「Concert By The Sea」に収められてる、1955年の9月19日にカーメルの公会堂で開催されたコンサートの曲目は次のようなものでした。

1. I'll Remember April
2. Teach Me Tonight
3. Mambo Carmel
4. Autumn Leaves
5. It's All Right with Me
6. Red Top
7. April in Paris
8. They Can't Take That Away from Me
9. How Could You Do a Thing Like That to Me
10. Where or When
11. Erroll's Theme

邦題はこんな感じです。

1. 四月の想い出
2. ティーチ・ミー・トゥナイト
3. マンボ・カーメル
4. 枯葉
5. イッツ・オールライト・ウィズ・ミー
6. レッド・トップ
7. パリの四月
8. 私からは奪えない
9. つれない仕打ち
10. いつか,どこかで
11. エロールのテーマ

この日の楽器構成はベースにEddie Calhoun、ドラムにDenzil Bestというシンプルなトリオ構成。エロール・ガーナーは規模の大きい編成は好まなかったそうで、この演奏形態もそういう嗜好にあってるようです。
曲のプログラムはジャズやポピュラーのスタンダードを中心にして「3」のようなオリジナル曲を混ぜてるような構成になってます。

最初の曲「I'll Remember April」はアボット/コステロ・コンビが出演した1942年の映画「Ride 'Em Cowboy」に使われたGene de Paulの曲。
わたしは「想い出」なんていう言葉がつけられてるだけでしっとりしたバラードを思い浮かべるんですが、これは結構軽やかな曲です。「四月」という季節に相応しい明るく、暖かい気分に満ちた曲。
エロール・ガーナーはこの最初の曲の出だしから、ミディアムアップテンポ寄りのスピードでブロックコードを強く繰り出していきます。様子探りのウォームアップなんか全然眼中にないという感じで、いきなりのハイテンションでコンサートは始まるわけですが、この最初の曲がエロール・ガーナーのピアノがどんなものか即座に分かるような紹介を兼ねてるような感じです。

2曲目の「Teach Me Tonight」は、これもGene de Paulの曲。
最初は全く売れなかったのがDe Castro Sistersが歌うことで徐々に広まっていき、Jo Staffordの歌で大ヒット。
色々取り上げられることのあるスタンダード曲ですが、わたしはこの曲のガーナー風の処理も結構好き。テンポはミディアムくらい、歩く歩調に合わせたくらいのスピードで進んでいきます。De Castro Sistersが歌ってるようなのを聴くと、ちょっとゴージャスな印象があるんですけど、ここではリラックスした感じの弾き方で紡がれるシングルトーンの旋律が、歌心に溢れていてなかなか心地いい感じです。

3曲目はエロール・ガーナーのオリジナル。タイトルでも分かるように若干ラテンのテイストが入ってます。でもほんの僅か。ラテンものだと思って聴くと拍子抜けするかもしれません。この曲で再びアップテンポに戻って、終盤で2つのメロディラインが縒り合わさっていくような複雑な動きをするのが面白いです。エロール・ガーナーは左右の手で、異なった旋律を同時に弾く事も出来て、この最後の絡み合うメロディはおそらくそういうやり方で演奏してるのだと思います。

次の曲がわたしの大好きな「枯葉」。1945年にJoseph Kosmaが作った超有名曲です。マルセル・カルネ監督の映画「夜の門」でイヴ・モンタンが歌ったのが今知られるこの曲の、歌曲としての原型らしいんですがこれはあまりヒットしなくて、後にジュリエット・グレコが歌うことで一般に知られることになります。このコンサートでは始めてバラードらしいバラードの登場となる曲です。
「枯葉」は有名曲なので、いろいろ演奏されたものが残ってます。ジャズで一番有名な「枯葉」の演奏といえば、マイルス・デイヴィスがアルバム「サムシング・エルス」に残したものになるんでしょうか。
ビル・エヴァンスも銀行員風のファッションが衝撃的なアルバム「ポートレイト・イン・ジャズ」でこの曲を演奏してます。わたしはビル・エヴァンスの「枯葉」はスコット・ラファロ、ポール・モチアンとの三つ巴のインタープレイがスリリングで結構好きなんですが、何故だかマイルス・デイヴィスの「枯葉」はあまりピンと来ないです。出だしのフレーズからして肌に合わない雰囲気があるというか。マイルス・デイヴィスは電化マイルスの頃の演奏なんか大好きなんですけど、マイルス版「枯葉」のイメージはわたしの持ってる「枯葉」のイメージの範疇には入ってないという感じが強いです。
この「コンサート・バイ・ザ・シー」でのエロール・ガーナーの「枯葉」はといえば、一般的な「枯葉」のイメージは冷たさの混じりだした秋の風が吹く中をちらほらと枯葉が舞い降りてくるような、ちょっと寂しい感じの光景だろうと思うんですが、おそらくこういうイメージのものとはかなり異なった印象を与えることになると思います。
エロール・ガーナーが演奏すると、このメランコリーにつつまれた曲でさえもどこか明るい光が差し込んでるような、春の暖かい陽光が肌のどこかに射して来てるような感触が紛れ込んでくる感じがします。
全体の感じを一言で云うなら「絢爛豪華」とでもなりそう。他の曲同様にこの曲も強弱つけたメリハリのある演奏で、ブロックコードでオーケストラ的な厚みを出してるところなんか、2~3枚の枯葉がひらひらと舞い落ちてくるというよりも、何十枚もの枯葉が山のように頭上に雪崩れ落ちてきては、風に乗って周囲で乱舞してるような感じにさえ聴こえるかもしれません。
また、ダイナミックな演奏だから余計に目だってくるのか、旋律が際立つ部分ではエロール・ガーナーのリリシズムがよく表現された演奏になってます。この「枯葉」に限ったことじゃないんですけど、スケールを羅列するだけの演奏というのではなくて、この人の演奏はピアノが本当によく歌うんですよね。特に「枯葉」は元の旋律が極めて綺麗なので、ころころと気持ちよく転がっていくピアノの音が歌心に満ちたメロディを紡ぎだしていく様はかなり聴き応えがあると思います。

続く5曲目の「It's All Right with Me」もこのアルバムの中では「枯葉」に次いで好きな曲です。Cole Porterが1953年のミュージカル「カンカン」のために作った曲。この曲、タイトルから想像できなくても聴いた瞬間に、どこかで聴いたことがあるって云う人は多いかもしれません。バラードに続いてコントラストをつけるかのように再びのアップテンポの曲の登場となって、疾走感に満ちたガーナーの演奏が楽しめます。

☆ ☆ ☆

このアルバムでわたしが気に入ってる曲は大体前半に集中していて、これは何故かといえば、後半ちょっと飽きてくるというと云い過ぎなんですけど、煽り方がほとんど「ビハインド・ザ・ビート」一つなものだから、聴いてる内にどうしても同じ印象のようなものを聴いてる感じになってくるからなんですよね。
さらに7曲目の「April in Paris」なんかは、このアルバムでは二度目のバラード登場になるんですが、その前に演奏された「枯葉」の印象が強すぎて、かなり損してるような感じになってます。

6曲目の「Red Top」はちょっとユーモラスな感じの曲、9曲目の「How Could You Do a Thing Like That to Me」の洒脱な感じのものとともに軽妙さをアルバムにもたらすような構成も考えられてはいるんですが、全体の印象としては前半部分よりもやはり若干弱い感じがします。

11曲目は「ただ今の演奏はエロール・ガーナー・トリオでした!」っていう感じの纏め的な短い演奏で、その後司会者が奏者の紹介に入ってコンサートの幕が下ろされるという展開になってるので、この日の事実上のラストとなってる曲は10曲目の「Where or When」ということになると思います。

曲そのものの話題とはちょっと離れるんですけど、この「Where or When」を「いつか、どこかで」っていう風に訳した邦題が本当にいいです。短いのに詩的で、いろんな情感やニュアンスを含んでる。原題の「Where or When」はこの邦題が持ってるような詩情やニュアンスを含み持ってるのかどうか、一体どうなんでしょう。
英語圏の人間じゃないので分からないけど、おそらくあまり含まれてないんじゃないかなんて思ったりします。

それはさておき1937年にRichard Rodgersが作曲したこの曲、他の人の演奏ではもう少しゆっくり目のテンポになってると思うんですが、そういう曲をエロール・ガーナーはかなりアップテンポで煽り立てるように弾いていきます。ひょっとしたらこのコンサートの曲の中で1、2を争うくらいハイスピードで。
力強く打ち鳴らされるブロックコードの上を、音数の多い旋律部分が縦横に駆け巡って、印象が薄かったアルバム後半部分を盛り上げていきます。後半部分の曲では最後で本領発揮というか、これが飛びぬけて印象的。考えてみれば、お終い近くなのにこれだけ強く勢いのある演奏が出来る力があるというのはやっぱり凄いことだと思います。

☆ ☆ ☆

ところで「枯葉」が入っていて、それがまたわたしの大好きな演奏の「枯葉」だったりするから、今の季節、「秋」にぴったりと思いついてこのアルバムを選択したわけですけど、改めて聴き通してみると、これはやっぱり「秋」のアルバムじゃないですね。音楽を聴くことの楽しさをそれこそ耳だけじゃなく体全体に呼び起こしてくるような、力強さと輝きに満ちた演奏が並んでいて、「枯葉」は入ってるものの、「秋」というよりもどちらかというと「春」の方が相応しいようなアルバムです。後半部分に「パリの四月」が入ってるし、そもそもCDのスタートする曲が「四月の想い出」なんていう曲で「春」を織り込んでる。
アルバム全体の雰囲気は最初の曲から既に明示されていたっていうことなのでしょうね。


☆ ☆ ☆

オープニング曲の「 I'll Remember April」です。



4曲目のお気に入り。「Autumn Leaves」



エロール・ガーナーのフレーズの作り方は、わたしにはどことなくギターの演奏を思わせるところがあります。チョーキングだとかハンマリングだとかギターを弾くテクニックで出来上がるようなフレーズをピアノのテクニックで弾いてしまってるという感じ。この曲の旋律の弾き方でもそういう感じを受けるんですがそんな感じを受けるのはわたしだけなのかな。わたしはそういう弾き方がある種ブルージーな感覚をガーナーの演奏に付け加えてるような気がしてます。

5曲目のこれまたお気に入りの「It's All Right With Me」




☆ ☆ ☆



完全盤と名を打ってリリースされたCD。なんともうワンパターン別のジャケットが使われている。


☆ ☆ ☆

最後まで読んでくださってありがとう御座いました。


2017年一月に追記訂正。



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【洋楽】 Blame It on the Bossa Nova - Eydie Gorme

イーディ・ゴーメの曲は去年クリスマス・ソングの記事を書いた時に一曲取り上げてます。だから今回で記事にするのは2回目です。
わたしはこの人の歌声、かなり好きなんですよね。わたしの中では女性ヴォーカリストのオールタイム・ベスト5でもリストアップすれば、もう確実にランクインするくらいお気に入りの歌声だったりします。
でも世評はどうかと云えば、忘れ去られた歌手という感じでもないんですが、知っている人の間では普通に知られてるものの、そこからもう新しいリスナーへとあまり広がっていかないような位置に落ち着いてる歌手というかそんな感じがします。
わたしがCDを漁りに行く、京都河原町、ファッションビル「オーパ」8Fにある「タワー・レコード」では、イーディ・ゴーメの名前で区切った棚もなく、ジャズ・ヴォーカルのコーナー、「E」の棚に他の雑多なCDと一緒に入れてあるだけ、京都の老舗CD、楽器ショップ「十字屋」でも扱いは大して変わりません。
かなりお気に入りの歌手だけに、この扱いはちょっと残念です。
ついでに書いておくと、ブログ村のトラックバック・コミュニティにイーディ・ゴーメ専用のものを見つけたんですが、参加者はコミュニティを立ち上げた人一人、それも05年から放置されたままでした。

☆ ☆ ☆

1931年生まれで、本名はイーディ・ゴルメザーノ(Edith Gormezano)。
イーディ・ゴーメ自身はニューヨークのブロンクス生まれですが、両親はスパニッシュ系のトルコ人だったそうです。こういう血筋がラテン系の歌を得意とする要因になっているのか、イーディ・ゴーメのアルバムにはトリオ・ロス・パンチョスと共演したものもあります。ちなみにブロンクスの高校時代にはスタンリー・キューブリックもいたとか。
英語とスペイン語の両方が喋れるという特技を生かして、国連の通訳になります。そして通訳の側、トミー・タッカー楽団などのビッグ・バンド専属の歌手として音楽活動を始めます。
53年にショー・ビジネス業界の実力者スティーブ・アレンのオーディションを受け、スティーブ・アレン・ショーなどのレギュラーで活躍。57年に男性歌手スティーブ・ローレンスと結婚し、その後はソロ以外にも夫婦のデュオとしても活動することになります。スティーヴ・ローレンスは59年のPretty Blue Eyes(恋のブルー・アイズ)や60年のFootsteps(悲しき足音)などで人気があった歌手です。
60年にはスティーブ・ローレンスとのデュオがベストヴォーカルグループとして、67年にはイーディ・ゴーメ自身が女性のベストヴォーカルパフォーマンスとしてグラミー賞を受賞しています。
さらに最近では映画「オーシャンズ11」に夫婦揃って当人役で出演してます。

イーディ・ゴーメは、CDはジャズヴォーカルの棚においてあるものの、フェイクしまくって原曲の旋律が分からなくなってるとか、面妖なスキャットに拡張していくとか、そういう所謂ジャズっぽい歌い方とは全く対極にあるようなスタイルで歌う歌手です。
対極にあるといってもささやき声で終始するようなタイプではなくて、歌い上げていくタイプの歌手ではあるんですが、実に堂々と歌い上げていっても、フェイクするような方向には走らずに、その歌は抑制が効いていて、曲の形に合わせて盛り上げるところは盛り上げ、穏やかな曲線を描いてるところでは繊細に寄り添うように様々にコントロールされて、理想的な歌の形を作り上げていきます。ちょっと聴いただけでも分かるくらい、イーディ・ゴーメのこういう自在に制御していく歌い方はやっぱり物凄く上手いです。

そして、そういう奔放に歌いながらも曲の持っている形を綺麗に織り出していくような、完成された歌唱法に、イーディ・ゴーメの持ち味でもあるつややかで伸びのある、特徴的なヴィブラートに装飾された優しい声が乗っかってくるわけです。
イーディ・ゴーメの声のつややかさもわたしにとっては相性の良い、聴いていて気持ちの良いポイントになってます。

ただ上手すぎる性なのか、時として上手いということしか耳に残らない感じもあって、そういう点では若干印象が薄くなるところもあります。こういう部分は上手いために出てきた弱点というか、ちょっと理不尽な感じがしますね。

☆ ☆ ☆

「Blame It on the Bossa Nova」は63年リリースのイーディ・ゴーメのボサノヴァ・アルバム。邦題は「恋はボサノヴァ」というもので、ちょっとダサいです。
わたしが関心を持ち出す以前のことなので、事情は今一つよく分からないんですが、日本ではこの人はボサノヴァの歌手として捉えられてるようで、それはこのアルバムがヒットしたからじゃないかと思ってます。でも実際にはイーディ・ゴーメはボサノヴァというカテゴリに収まるというよりも、はるかに許容量の大きい、万能タイプの歌手なんですけどね。

曲目はこんなの。

1. One Note Samba
2. Melodie d'Amour
3. Gift
4. Sweetest Sounds
5. Dansero
6. Blame It on the Bossa Nova
7. Desafinado
8. Message
9. Almost Like Being in Love
10. Moon River
11. Coffee Song
12. I Remember You
13. Sweet Talk
14. Oba Oba

各曲の日本語タイトルは

1. ワン・ノート・サンバ
2. メロディー・ダモール
3. ギフト(レカード・ボサノヴァ)
4. 甘き調べ
5. ダンセロ
6. 恋はボサノヴァ
7. デサフィナード
8. 恋のメッセージ
9. まるで恋のようだ
10. ムーン・リバー
11. コーヒー・ソング
12. アイ・リメンバー・ユー

13、14は輸入盤のみ収録。

「One Note Samba 」「Desafinado」のようなボサノヴァ・スタンダードと「Sweetest Sounds」「Moon River」などのスタンダード曲の詰め合わせのような内容のアルバムになってます。ちなみにビルボードの全米チャート第7位を記録してミリオンセラーの結果を残しました。

わたしが一番好きなのは4曲目の「Sweetest Sounds」。これはスタンダードのボサノヴァ・ヴァージョン。でもこれ残念ながらYoutubeでは探しきれませんでした。
オスカー・ハマーシュタインIIとコンビを組んでミュージカルのスタンダードを数多く作り続けたリチャード・ロジャースによる曲で、ミュージカル「No Strings」のメインタイトル曲。のちに97年のディズニーのシンデレラTV版でも使われることになる曲です。ディズニーのシンデレラ版は黒人歌手Brandyが歌ってるんですが、イーディ・ゴーメのこのアルバム収録のものと較べると、雲泥の差というか。

このアルバムを代表する曲を上げるなら、3曲目の「Gift」になるのかな。この曲は「Recado Bossa Nova」というのが原曲。ブラジル出身のジャルマ・フェレイラ(Dijalma Ferreira)作曲で、ハンク・モブレー(Hank Mobley)の演奏したものと、このイーディ・ゴーメ版が有名です。
86年に日本では煙草の「セブンスターEX」が新発売になった時にCMに使われて、これで記憶に残ってる人が多いかもしれません。
イーディ・ゴーメはアメリカではショービジネスのメインストリームを歩き続けてきた人なんですが、なぜか日本ではあまり話題に上ることもなく、、このCMでようやく一般に知れ渡ることになりました。

わたしはコーヒー好きなので、11曲目の「Coffee Song」もちょっと気を引くかな。作詞Bob Hilliard 作曲Dick Milesによるアメリカのポピュラー・ソングで、確かシナトラが歌ってました。スターバックスとかで店内で流せば良いのに。

2曲目の「Melodie D'amour」もキュートで良いです。こういうキュートな曲は、このアルバム自体の軽い指向性とよく馴染んでる感じがします。

ちょっと失敗してるんじゃないと思ったのが10曲目の「Moon River」。これを軽快でうきうきするようなリズムに乗せると、ノリが良いっていうよりも何か忙しないというか、この曲はゆったりしてるほうが良いです。しかも4拍子に変更されてるし…。

ボサノヴァ・アルバムといっても、当時のアメリカのボサノヴァの流行にあわせて作製された、ボサノヴァ・テイストを持ったポピュラー・アルバムといったほうがアルバムの雰囲気は近いかもしれません。
何よりもイーディ・ゴーメの歌い方が、ボサノヴァと云った時に思い浮かぶような典型とはかけ離れてるんですよね。ささやき呟くような声なんて何処にもなく、全部天真爛漫に歌い上げてる。
だからこのアルバムはボサノヴァを扱ってはいるものの、ボサノヴァが持っていそうなブラジルの土着的な要素のようなものはとりあえず脇においておくような感じで、軽快で洒脱で、とにかく溌剌とした印象に満ち溢れてたものになってます。
つややかで伸びのある声で歌われる溌剌としたボサノヴァって、ひょっとしたら意外と他では中々見つからないかも。

☆ ☆ ☆






CDは入手できるものとしては現在国内盤紙ジャケット仕様のものがリリースされてるはすなんですが、アマゾンでは見当たりませんでした。各店舗の在庫限りのような感じになってるのかな。


(2010年4月18日 追記)
記事を書いた時はほとんど入手不可の状態だったんですが、現在、日本版がリリースされてます。

☆ ☆ ☆

The Gift!(Recado Bossa Nova) - Eydie Gorme


Blame It On The Bossa Nova - Eydie Gorme


Melodie D'amour - Eydie Gorme



【洋楽】 Hush, Hush, Sweet Charlotte - Patti Page

クリスマスソングのほうにパティ・ペイジの歌を追加したので、続きでパティ・ペイジを取り上げてみます。曲は「Hush, Hush, Sweet Charlotte 」
この曲もクリスマスソングと云い張れば、そう聴こえないこともなさそうかな。

☆ ☆ ☆

パティ・ペイジと云えば「テネシー・ワルツ」。そう云ってもいいほど、この曲の歌い手として有名な人です。これの大ヒットのせいで「ワルツの女王」だったか、確かそんな称号まで付いていたはず。
生まれは1927年、40年代後半頃にマーキューリー・レコードと契約して本格的な歌手としてスタートします。
このマーキュリーレコード時代の1950年にパティ・ペイジ最大のヒットとなった「テネシー・ワルツ」がリリースされました。

60年代に、それまで在籍していたマーキュリーレコードから離れ、コロンビアレコードに移籍。
今回の「Hush, Hush, Sweet Charlotte」はそのコロンビア時代の65年にリリースされた曲でした。これがマーキュリー時代の「テネシー・ワルツ」程ではなかったものの、トップ10に入るくらいヒットすることになります。
ちなみにパティ・ペイジの曲としては、大ヒットしたのはこの曲が最後のものだったそうです。

☆ ☆ ☆

この「Hush, Hush, Sweet Charlotte」という曲、こんなに優しい響きの曲なのに、実は1964年にベティ・デイビス主演でロバート・オルドリッチ監督が撮った「ふるえて眠れ」というスリラー映画の主題歌でした。
映画では夜中になると流れてくる不気味な子守唄という扱いの曲だったらしいんですが、曲想が優しすぎてミスマッチじゃなかったかと。こんな曲だったら怖がる前に聴き惚れてしまいそうです。
もっとも、映画で使われた曲そのものはパティ・ペイジの歌ったものではなく、ベティ・デイビスのものだったようで、この曲には映画の主役ベティ・デイビスの歌ったバージョンも存在します。

パティ・ペイジはわたしにはジャズ歌手というよりもどちらかというとポピュラー、カントリー寄りの歌手という印象があって、こういう素朴で優しい歌は結構合っていたような気がします。

☆ ☆ ☆

「Hush, Hush, Sweet Charlotte」は1965年にリリースされた同じタイトルのLPに収録されてます。

LPに収録されていた曲目はこういうの。

1. Hush, Hush, Sweet Charlotte
2. Try to Remember
3. Green Leaves of Summer
4. Jamaica Farewell
5. Croce de Oro (Cross of Gold)
6. Who's Gonna Shoe My Pretty Little Feet
7. Black Is the Color of My True Love's Hair
8. Longing to Hold You Again
9. Danny Boy
10. Can't Help Falling in Love
11. Scarlet Ribbons (For Her Hair)

今はこのLPレコードと「Gentle on My Mind」というLPレコードの2枚、コロンビア時代の代表作がカップリングされた、2in1のCDがリリースされてます。

先に書いたように、当時のポピュラー・ソングやカントリーが主になった選曲のようで、わたしにはジャズ・シンガーだとあまり選ばないような曲の選択になってるように見えます。

☆ ☆ ☆

わたしが始めて聴いた時、このCDの中で面白かったのが2曲目の「Try to Remember」でした。
60年に始まったオフ・ブロードウェイのミュージカル「ザ・ファンタスティックス」の挿入歌で、のちにブラザーズ・フォアの歌でヒット、広く知られることになる曲です。

パティ・ペイジの「Try to Remember」は凄い浮遊感があるんですよね。ふわふわと漂っていくような感じ。
曲は結構ヒットしてるので他の歌手が歌った「Try to Remember」はいろいろあって、もちろん全部聴いてるわけじゃないことを前提にしても、こんなに重さから解き放たれたように歌った「Try to Remember」はパティ・ペイジのものでしか体験したことがなかったです。歌の内容は過ぎ去った日々への追憶の歌で、ふわふわしてるだけのものでもないんだけど、パティ・ペイジ版の「Try to Remember」は初めて聴いた時からとても不思議な感触の、心地良い歌でした。

☆ ☆ ☆

Hush, Hush, Sweet Charlotte/Gentle on My MindHush, Hush, Sweet Charlotte/Gentle on My Mind
(1999/09/28)
Patti Page

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Hush Hush Sweet Charlotte - Patti Page


Patti Page ~ Try To Remember ~ 1965



おまけ。
パティ・ペイジ版の「Try To Remember」を探していて見つけた、サンディ・ダンカンとマペットショーによる「Try To Remember」
Try To Remember - The Muppet Show/Sandy Duncan



【洋楽】 Waltz For Debby - Bill Evans Trio

1961年6月25日のニューヨーク、ヴィレッジ・ヴァンガードでのライブの記録なんですが、半世紀ほども経ってるのに未だにジャズCDの売り上げトップ10に入ってくるような怪物アルバムになってます。
当時の演奏者はビル・エヴァンスのピアノ以外ではベースのスコット・ラファロと、ドラムのポール・モチアンの三人。
この日の演奏はビートルズの記事で書いたような云い方をすれば、音楽の神様が確実に舞い降りてきてました。ところがCDを聴けば分かるんだけど、この日のヴィレッジ・ヴァンガードの客はあまり演奏を聴いてないんですよね。食器の触れ合う音とかがよく入ってくる。この日、この場所にいた客はのちに歴史的な演奏になるものの真っ只中にいたのに、どちらかというと飲み食いの方に気を取られてたようです。
1961年6月25日のヴィレッジ・ヴァンガードでビル・エヴァンス・トリオの演奏に聴き惚れてたのは音楽の神様だけだったかも知れません。

☆ ☆ ☆

このトリオの一番の特徴は「インター・プレイ」とでも云うようなものです。
普通この頃のこういう形態での演奏はベースとドラムが下地を作って、その上をピアノが駆け回るというようなものを中心に組み立てていたんだけど、この3人の演奏は、3人ともが同じフィールドに上がってそれぞれソロに近いような演奏で触発し合いながら進めていくスタイルを取ってました。

親密な会話でもするように絡み合ったり、投げかけ、受け渡したりしながら進む音楽。この3人が演奏したのはそういう音楽です。
エヴァンスが「次の考えが読める信じられないような奴」と云い、モチアンが「演奏に自由を発見したのはスコットがいたから」と云うように、こういう演奏を可能にした要の部分にスコット・ラファロという天才ベーシストがいました。

ところが、まるで映画の中の出来事のように、このヴィレッジ・ヴァンガードでのライブの11日後、スコット・ラファロは交通事故で亡くなってしまいます。この時ラファロはまだ25歳。
ヴィレッジ・ヴァンガードでの緊密な演奏をした直後に音楽の要を失ってしまったエヴァンスは精神的なショックで以後半年くらいの間、ピアノが弾けなかったらしいです。

後の演奏でベーシストを含めてメンバーをとっかえひっかえしながら音楽活動を続けることになるんですが、違う可能性を求めてるような部分もありながら、ラファロの完璧な代役を求めて、1961年6月25日にたえす立ち返ろうとする衝動も秘めていたんじゃないかと思います。

☆ ☆ ☆

わたしはビル・エヴァンスのCDを聴くと、闇の中で輝いてる青白い炎のようなものを連想するんですよね。でも触っても全然熱くないような不思議な炎。わたしにとってのビル・エヴァンスはそんなイメージ。

ビル・エヴァンスの生涯はスコット・ラファロから始まって奥さんとお兄さんを自殺で失うなど、ピアニストとしての名声は手に入れたけれど、喪失の生涯でした。晩年は麻薬に蝕まれて肝硬変で亡くなってるんですが、病院には行こうとしなかったらしいです。

自分から大切なものを奪っていくような世界に対して、そんな愚劣な世界を作った神様に、神様が作った世界よりも美しいものを少しだけ残して、さっさとけりをつけて消え去っていった人みたいな印象があります。

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ワルツ・フォー・デビイ+4ワルツ・フォー・デビイ+4
(2007/09/19)
ビル・エヴァンス

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My Foolish Heart - Bill Evans Trio

Village Vanguardでの演奏ではないんですが…。

この日の録音にはもう1枚「Sunday at the Village Vanguard」というのがあります。「Sunday at the Village Vanguard」はラファロへの追悼盤のような編集で、ラファロのベースがより楽しめるような構成になってる感じ。
同じ日の演奏を振り分けてるだけなのに、知名度はなぜか「Waltz For Debby」に負けてしまってます。

「My Foolish Heart」は「Waltz For Debby」の1曲目。
作詞がネッド・ワシントン、作曲がビクター・ヤング。サリンジャーの短編小説をスーザン・ヘイワード主演で映画化した、1949年の映画「My Foolish Heart (邦題 愚かなり我が心)」の主題歌です。


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【洋楽】 Quiet Kenny - Kenny Dorham

わたしはこのジャケット写真を見るたびに、もうちょっとキリッと写ってる写真を用意できなかったのかなと思ってしまいます。

邦題は「静かなるケニー」。トランペット奏者、ケニー・ドーハムの代表作です。
ケニー・ドーハムを最初に良いなと思ったのは、カフェ・ボヘミアでのライブで演奏した「Autumn in New York」でした。これはたまたまかかっていたラジオで聴いて、そしてその後「静かなるケニー」が代表作と知って手を出してみることに。

「静かなる」なんてついてるからバラードばかりが並んでる、なだらかな平地みたいなアルバムだろうと思ってたのが、そんなに云うほど静かじゃない。それなりにスウィング感もあります。
バラードしか入ってないアルバムって、割とバラード好きのわたしも辛気臭いだろうなと思うんですが、タイトルに「静かなる」なんて書いてれば、一応そういうのだと心構えをして聴くわけで、音が鳴り出すとちょっと拍子抜けしてしまいました。
1曲目に出てくる代表作の「蓮の花(Lotus Blossom )」だって6/4拍子の変拍子で面白いし「静かなる」という割には音数が多い。普通に起伏のある風景が拡がります。
「静かなるケニー」はタイトルで云うほど静かじゃないし、でもそれでは逆に浮かれ騒ぐほど陽気なアルバムかといえばそうでもない、ちょっとちぐはぐなアルバムといった印象になりました。

ケニー・ドーハムを割とよく聴きだすようになるのは、もっと後にリリースしたアルバム、「Afro-Cuban」みたいにラテンをやってるアルバムを聴いて気に入ってからなんですが、「静かなるケニー」のどっちつかずの印象は未だにちょっとだけ残ってます。

それにしても地味なトランペッターなんだけど、でもこの人のトランペットの音はつや消しみたいな不思議な音色で、何か暖かい感じが伝わってきて基本的には嫌いじゃないです。
それと「静かなるケニー」で意外と良いのがピアノ。ピアノを演奏してるのはトミー・フラナガンです。

☆ ☆ ☆

ケニー・ドーハムはアルバム「Una Mas」を出したのを最後に、キャリア途中でなぜか失速し、表舞台から消えてしまうんだけど、80年代に入ってから「Afro-Cuban」をDJとかが取り上げ、予想外の領域とも云えるクラブ・シーンで復活することになります。
ジャズ・シーンではキャリアこそ途中で消えてしまったものの、それでも普通に知られてたので、復活というのはちょっと失礼じゃないかと思いました。

静かなるケニー静かなるケニー
(2007/09/19)
ケニー・ドーハム

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演奏シーンです。
画質劣悪なんですが、でもケニー・ドーハムの演奏シーンなんてほとんど残ってないんじゃないかと思うので、これは貴重な動画かも。


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