2008/08/30
同名ゲームの映画化です。わたしはゲーム版「サイレントヒル」のほうは結構お気に入りで、一昨年の公開時に期待と不安半々で観に行きました。結果は大絶賛するというほどまではいかなかったんだけど、意外とよく出来てるといった好印象で観終えました。
クリストフ・ガンズ監督自身がゲームの「サイレントヒル」の大ファンだったらしく、ゲーム版「サイレントヒル」へのリスペクトを込めて、その世界の再構築に神経を使っているのが分かります。大抵のゲーム映画ではこの時点から既にぐだぐだになってるものが多いです。ゴーストタウンと化したサイレントヒルの、灰が降って白く霞んだ光景は、ビジュアル的になかなか雰囲気があったし、異界である血と錆と臓物の金網世界も上手く表現されてました。ゴーストタウンのサイレントヒルが異界に変わっていく過程はゲームでも表現してなかった部分です。
もちろんちょっと残念ってところもあります。
まず、ゲームのように周囲2メートルくらいしか見えないような闇がなかった。映画では暗闇でも画面の隅まで見渡せます。これはディセントの記事の時にもちょっと書きました。
それと異界に人が多すぎて騒がしかったこと。でもこれは仕方ないかもしれません。ゲームみたいに一人で歩き回ってばかりではドラマが作れないし。
あと、病院のシーンがあっさりしすぎてたかな。ゲーム版に出てくる病院は行くのが嫌になるほど、暗くて気味悪くて複雑な場所で、終了するのに物凄く時間がかかるところだったし、映画でも一番奥に最重要人物が陣取ってる場所なんだから、もうちょっと印象に残るシナリオを考えて欲しかった。
ナースの大群は面白かった。勢ぞろいして近寄ってくる様は、ちょっと暗黒舞踏みたいでした。
☆ ☆ ☆
話はゲーム版の「1」を元にして狂信者の宗教集団が登場する、こういうホラー映画ではほとんど定番といえるような内容です。
魔女と決めつけられ火焙りにされた少女アレッサ(ジョデル・フェルランド-少女時代)の、教祖クリスタベラ(アリス・クリーグ)と信者たちへの復讐の物語。
全身大やけどを負いながらも命を取り留めたアレッサはサイレントヒルの病院の一室から憎しみの感情によって世界を変え始める。街全体を覆いつくし重なり合う異界が出現し、アレッサの邪悪な心の化身、ダーク・アレッサ(ジョデル・フェルランド)と、僅かに残った良心の化身、シャロン(ジョデル・フェルランド )が生まれます。
良心の化身、シャロンは保護されるためにダーク・アレッサの手によって外の世界に連れ出され、孤児院に拾われて、その後ローズ(ラダ・ミッチェル)とクリストファー(ショーン・ビーン)の夫婦の養女となるんですが、時がたって復讐を完結させるために外界の人間の手助けを必要としたアレッサに再び呼び戻される事になります。それが発端。
シャロンはうわ言のようにサイレントヒルの名前を口に出すし、背後の事情を知らないローズは、ネットでサイレントヒルの場所を探し出して、娘の異常な状態を解決するようなものが見つかるかもしれないと、シャロンを連れてサイレントヒルに行ってみる決心をします。
ストーリーは結構ゲーム的な展開をします。目につくところに手がかりアイテムが置いてあって、それを見つけただけで次に行く場所を簡単に了解したり。でもこれ、ガンズ監督はわざとそういう演出でやってるようです。111号室発見の件で、部屋を見つけるのに使ったナイフを、その後直ぐに落っことして、武器になるのにそのまんま放置。完璧に用済みアイテムの扱いをしてる。こういうゲーム的な感触を織り込んでいくことに、ゲームをやらない観客とゲーム好きの観客では捉え方がいろいろ異なっていただろうなとは思います。
クリスタベラと信者が閉じこもる異界の中の教会に侵入する手助けとして、シャロンを使ってローズを呼び込んだくせに、三角頭をけしかけるはバブルヘッド・ナースの大群の中を突っ切らせるはで、ローズを散々な目にあわせてるのも、病院の最奥のベッドに居る自分のところまで来られるかどうかの試練を与えていたからだという、これは理由としてはちょっと苦しい…。ゲームが基本どういうものか知ってると、ここは一応それほど突っ込んではいけないところなんだろうと、寛容の方向になびいていくんだけど、普通に観てたらローズが魔物に寄ってたかって襲われていく理由はやはり理不尽でしょうね。
☆ ☆ ☆
ガソリンスタンドで、サイレントヒルに向かうローズとシャロンのやり取りに不信感を持って後を追いかけた結果、第三者として巻き込まれただけなのに一番惨い最期を迎えることになったシビル・ベネット巡査(ローリー・ホールデン)。
ベネット巡査の最後はこの映画の中でも突出して残酷で、描写も悪趣味でした。
何故この部分だけ歪に突き出たみたいに注目を集めるような演出にしたんだろうと、結構な疑問として残りました。
後で、観直したりして思ったのは、ベネット巡査の火焙りのシーンは、アレッサが火焙りにされたのと重ねあわされてるということ。
火焙りにされながらベネット巡査が呟く言葉は「味方は誰もいない」「お母さん、そばに居て」という言葉でした。この言葉はベネット巡査が口にするよりも、信者に囲まれ、母親から引き離されて連れて行かれたアレッサの方がはるかに相応しいものです。
物語的にはベネット巡査の処刑の直後に、ダーク・アレッサを体内に忍ばせたローズが教会に侵入してきて、ラストのクリスタベラや狂信者たちへの復讐の大殺戮シーンへなだれ込んでいくので、その直前に復讐の主体であるアレッサに再登場して欲しかったという事なんでしょう。復讐心の始まりを見せる火焙りの形で。
ベネット巡査のシーンは火焙りにあった時のアレッサの再現としての意味も加えられているように思えます。この役割は第三者で巻き込まれる形のベネット巡査以外の主要登場人物ではおそらく振り当てにくかったんでしょう。
さらに、気づいたこと。
クリスタベラはアレッサを魔女として断罪しました。妹であるダリア(デボラ・カーラ・アンガー)の私生児ということもあって、狂信者の融通の利かない勝手な道徳基準で悪魔と見做したわけなんですが、クリスタベラをそういう狂信者に描いてるようにみせながら、クリスタベラの背後に後光が射してるような描写もあったりするんですよね。
結局アレッサは世界を変容させるような力を得て、ダーク・アレッサなる邪悪の化身まで作り出してるから、やはり悪魔じゃなかったのかと、クリスタベラは本当は正しかったんじゃないかと、そういう見方も出来るようなところがあります。
一応正邪両方を含む人物としても描写しておいて、ラスト前に正義としてのクリスタベラという有り方を消し去り、最後の大殺戮のターゲットに相応しい悪人に戻しておく必要があった。だからクリスタベラにベネット巡査を悪魔として火焙りにさせた。ベネット巡査は唯の第三者として巻き込まれただけで、当然悪魔ではないことは観客は十分に知ってるわけだから、この行為におよんだ時点でクリスタベラは完璧に間違っていることが誰の目にも分かって、確実に悪人の位置に引きもどすことが出来ます。あとはクライマックスに向けて一直線。
ガンズ監督、都合の良いアイテムが次々に出てくるようなゲーム映画を作りながら、何だか妙に手の込んだ小細工を仕込んでるようにも思えます。
☆ ☆ ☆
ショーン・ビーンが出てるんですよね。最後まで蚊帳の外みたいな役だったので、ちょっともったいないなぁと思って観てました。この映画、「物体X」とは正反対に女ばかりが活躍して、男は脇に放り出されてます。
それと意外な役どころのデボラ・カーラ・アンガー。老けメイクが板についてない。
Silent Hill Trailer
原題 Silent Hill
監督 クリストフ・ガンズ
公開 2006年
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