2009/02/23
【洋楽】 Blame It on the Bossa Nova - Eydie Gorme
イーディ・ゴーメの曲は去年クリスマス・ソングの記事を書いた時に一曲取り上げてます。だから今回で記事にするのは2回目です。わたしはこの人の歌声、かなり好きなんですよね。わたしの中では女性ヴォーカリストのオールタイム・ベスト5でもリストアップすれば、もう確実にランクインするくらいお気に入りの歌声だったりします。
でも世評はどうかと云えば、忘れ去られた歌手という感じでもないんですが、知っている人の間では普通に知られてるものの、そこからもう新しいリスナーへとあまり広がっていかないような位置に落ち着いてる歌手というかそんな感じがします。
わたしがCDを漁りに行く、京都河原町、ファッションビル「オーパ」8Fにある「タワー・レコード」では、イーディ・ゴーメの名前で区切った棚もなく、ジャズ・ヴォーカルのコーナー、「E」の棚に他の雑多なCDと一緒に入れてあるだけ、京都の老舗CD、楽器ショップ「十字屋」でも扱いは大して変わりません。
かなりお気に入りの歌手だけに、この扱いはちょっと残念です。
ついでに書いておくと、ブログ村のトラックバック・コミュニティにイーディ・ゴーメ専用のものを見つけたんですが、参加者はコミュニティを立ち上げた人一人、それも05年から放置されたままでした。
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1931年生まれで、本名はイーディ・ゴルメザーノ(Edith Gormezano)。
イーディ・ゴーメ自身はニューヨークのブロンクス生まれですが、両親はスパニッシュ系のトルコ人だったそうです。こういう血筋がラテン系の歌を得意とする要因になっているのか、イーディ・ゴーメのアルバムにはトリオ・ロス・パンチョスと共演したものもあります。ちなみにブロンクスの高校時代にはスタンリー・キューブリックもいたとか。
英語とスペイン語の両方が喋れるという特技を生かして、国連の通訳になります。そして通訳の側、トミー・タッカー楽団などのビッグ・バンド専属の歌手として音楽活動を始めます。
53年にショー・ビジネス業界の実力者スティーブ・アレンのオーディションを受け、スティーブ・アレン・ショーなどのレギュラーで活躍。57年に男性歌手スティーブ・ローレンスと結婚し、その後はソロ以外にも夫婦のデュオとしても活動することになります。スティーヴ・ローレンスは59年のPretty Blue Eyes(恋のブルー・アイズ)や60年のFootsteps(悲しき足音)などで人気があった歌手です。
60年にはスティーブ・ローレンスとのデュオがベストヴォーカルグループとして、67年にはイーディ・ゴーメ自身が女性のベストヴォーカルパフォーマンスとしてグラミー賞を受賞しています。
さらに最近では映画「オーシャンズ11」に夫婦揃って当人役で出演してます。
イーディ・ゴーメは、CDはジャズヴォーカルの棚においてあるものの、フェイクしまくって原曲の旋律が分からなくなってるとか、面妖なスキャットに拡張していくとか、そういう所謂ジャズっぽい歌い方とは全く対極にあるようなスタイルで歌う歌手です。
対極にあるといってもささやき声で終始するようなタイプではなくて、歌い上げていくタイプの歌手ではあるんですが、実に堂々と歌い上げていっても、フェイクするような方向には走らずに、その歌は抑制が効いていて、曲の形に合わせて盛り上げるところは盛り上げ、穏やかな曲線を描いてるところでは繊細に寄り添うように様々にコントロールされて、理想的な歌の形を作り上げていきます。ちょっと聴いただけでも分かるくらい、イーディ・ゴーメのこういう自在に制御していく歌い方はやっぱり物凄く上手いです。
そして、そういう奔放に歌いながらも曲の持っている形を綺麗に織り出していくような、完成された歌唱法に、イーディ・ゴーメの持ち味でもあるつややかで伸びのある、特徴的なヴィブラートに装飾された優しい声が乗っかってくるわけです。
イーディ・ゴーメの声のつややかさもわたしにとっては相性の良い、聴いていて気持ちの良いポイントになってます。
ただ上手すぎる性なのか、時として上手いということしか耳に残らない感じもあって、そういう点では若干印象が薄くなるところもあります。こういう部分は上手いために出てきた弱点というか、ちょっと理不尽な感じがしますね。
☆ ☆ ☆
「Blame It on the Bossa Nova」は63年リリースのイーディ・ゴーメのボサノヴァ・アルバム。邦題は「恋はボサノヴァ」というもので、ちょっとダサいです。
わたしが関心を持ち出す以前のことなので、事情は今一つよく分からないんですが、日本ではこの人はボサノヴァの歌手として捉えられてるようで、それはこのアルバムがヒットしたからじゃないかと思ってます。でも実際にはイーディ・ゴーメはボサノヴァというカテゴリに収まるというよりも、はるかに許容量の大きい、万能タイプの歌手なんですけどね。
曲目はこんなの。
1. One Note Samba
2. Melodie d'Amour
3. Gift
4. Sweetest Sounds
5. Dansero
6. Blame It on the Bossa Nova
7. Desafinado
8. Message
9. Almost Like Being in Love
10. Moon River
11. Coffee Song
12. I Remember You
13. Sweet Talk
14. Oba Oba
各曲の日本語タイトルは
1. ワン・ノート・サンバ
2. メロディー・ダモール
3. ギフト(レカード・ボサノヴァ)
4. 甘き調べ
5. ダンセロ
6. 恋はボサノヴァ
7. デサフィナード
8. 恋のメッセージ
9. まるで恋のようだ
10. ムーン・リバー
11. コーヒー・ソング
12. アイ・リメンバー・ユー
13、14は輸入盤のみ収録。
「One Note Samba 」「Desafinado」のようなボサノヴァ・スタンダードと「Sweetest Sounds」「Moon River」などのスタンダード曲の詰め合わせのような内容のアルバムになってます。ちなみにビルボードの全米チャート第7位を記録してミリオンセラーの結果を残しました。
わたしが一番好きなのは4曲目の「Sweetest Sounds」。これはスタンダードのボサノヴァ・ヴァージョン。でもこれ残念ながらYoutubeでは探しきれませんでした。
オスカー・ハマーシュタインIIとコンビを組んでミュージカルのスタンダードを数多く作り続けたリチャード・ロジャースによる曲で、ミュージカル「No Strings」のメインタイトル曲。のちに97年のディズニーのシンデレラTV版でも使われることになる曲です。ディズニーのシンデレラ版は黒人歌手Brandyが歌ってるんですが、イーディ・ゴーメのこのアルバム収録のものと較べると、雲泥の差というか。
このアルバムを代表する曲を上げるなら、3曲目の「Gift」になるのかな。この曲は「Recado Bossa Nova」というのが原曲。ブラジル出身のジャルマ・フェレイラ(Dijalma Ferreira)作曲で、ハンク・モブレー(Hank Mobley)の演奏したものと、このイーディ・ゴーメ版が有名です。
86年に日本では煙草の「セブンスターEX」が新発売になった時にCMに使われて、これで記憶に残ってる人が多いかもしれません。
イーディ・ゴーメはアメリカではショービジネスのメインストリームを歩き続けてきた人なんですが、なぜか日本ではあまり話題に上ることもなく、、このCMでようやく一般に知れ渡ることになりました。
わたしはコーヒー好きなので、11曲目の「Coffee Song」もちょっと気を引くかな。作詞Bob Hilliard 作曲Dick Milesによるアメリカのポピュラー・ソングで、確かシナトラが歌ってました。スターバックスとかで店内で流せば良いのに。
2曲目の「Melodie D'amour」もキュートで良いです。こういうキュートな曲は、このアルバム自体の軽い指向性とよく馴染んでる感じがします。
ちょっと失敗してるんじゃないと思ったのが10曲目の「Moon River」。これを軽快でうきうきするようなリズムに乗せると、ノリが良いっていうよりも何か忙しないというか、この曲はゆったりしてるほうが良いです。しかも4拍子に変更されてるし…。
ボサノヴァ・アルバムといっても、当時のアメリカのボサノヴァの流行にあわせて作製された、ボサノヴァ・テイストを持ったポピュラー・アルバムといったほうがアルバムの雰囲気は近いかもしれません。
何よりもイーディ・ゴーメの歌い方が、ボサノヴァと云った時に思い浮かぶような典型とはかけ離れてるんですよね。ささやき呟くような声なんて何処にもなく、全部天真爛漫に歌い上げてる。
だからこのアルバムはボサノヴァを扱ってはいるものの、ボサノヴァが持っていそうなブラジルの土着的な要素のようなものはとりあえず脇においておくような感じで、軽快で洒脱で、とにかく溌剌とした印象に満ち溢れてたものになってます。
つややかで伸びのある声で歌われる溌剌としたボサノヴァって、ひょっとしたら意外と他では中々見つからないかも。
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CDは入手できるものとしては現在国内盤紙ジャケット仕様のものがリリースされてるはすなんですが、アマゾンでは見当たりませんでした。各店舗の在庫限りのような感じになってるのかな。
(2010年4月18日 追記)
記事を書いた時はほとんど入手不可の状態だったんですが、現在、日本版がリリースされてます。
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The Gift!(Recado Bossa Nova) - Eydie Gorme
Blame It On The Bossa Nova - Eydie Gorme
Melodie D'amour - Eydie Gorme