2015/10/29
思う心は千里の闇を縫って走る

思う心は千里の闇を縫って走る
2015 / 10 / Olympus Pen E-P5 / M.ZUIKO DIGITAL 14-42mm f3.5-5.8
依然100円文庫での買い直しと問答無用半額写真集の狩猟は続いていて、どちらも保存しておくのが第一の目的になってるから、あっという間に収納場所に困り果てることとなった。100円の汚れ果てた文庫を保存対象に考えるのも妙な話なんだけど、やってる行為は、以前持っていて手放したのを買いなおしてる、一度手元にあった本だからお金をかけるのは嫌、100円だとちょっとした宝物探しでもしてる気分にもなる、という性質のものだから、また置く場所がなくなったら処分するという方向へは思考はなかなか流れていかなくなってる。
こうやって集めなおしてる中で、今読んでるのは島尾敏雄の「出発は遂に訪れず」という本。この短編集に対する興味は昔から表題作の系列じゃなくて、同時に収められてるシュルレアリスム的な作品のほうだった。
それにしても状態の酷い文庫で奥付を見ると昭和四十八年とある。なんと40年以上前の本!本自身も40年後にブックオフの100円コーナーに並ぶことなど想像もしてなかっただろう。ページ全体が茶色に日焼けしてる上に活字が小さい。昔はこんな小さな活字の文庫を平気で読んでたんだとこれは本当に吃驚する。
何しろこちらの眼は老眼が入ってきてるものだから、茶色に変色したページに印刷された活字はコントラストが低く、その小ささと相まって無茶がつくほど読みにくい。というか、電車の中なんかだと窓から差し込む陽光に晒すくらいしないとほとんど読めなかったりする。
これは今新刊の文庫で本屋に並んでるのかなぁ。あまりにも読みにくいので活字の大きな日に焼けてない文庫に、そういうのが出てるなら買い換えたいと、なんだか買いなおし、買い替えの迷路の中に踏み入れてしまいそうな気配になってきてる。
ちなみに古書の類は映画DVDの廃盤とか漁ってる感覚の延長で、基本的には新刊の本なら積んである何冊か下のものを買ったりするような性癖の持ち主なんだけど、それしかないという状況なら割とその性癖に封印して手に取るのにあまり抵抗が無かったりする。でも水濡れの跡がある古本は、これだけは絶対に嫌。珍しい書物を棚に見つけて引っ張り出してもこの水の染みがあったりふやけてる状態の本は速攻で棚に戻すし、今そんなのを手にしたことで穢れてしまったものを洗い落とすのに、そのまま洗面所に駆け込みたくなってしまう。

写真集のほうで入手したのも何冊かあって、その中でとんでもなかったのがマイケル・デウィックの「The End : Montauk,N.Y.」という写真集。「アート写真集 ベストセレクション 101 2001-2014」という本では、超希少本で入手が極めて困難、なんていう紹介のされ方をしていた本なんだけど、950円で出てたのを買って、ためしにアマゾンでどういう取引がされてるのか調べてみたら、なんと約46万円くらいの値段がついていた。もっともいつものことでこんな値段で誰も買わないからアマゾンのマーケットプレースのリストに残ってるわけで、めったに市場には出ないらしいものの、市場に出た場合の実際の取引は5万円くらいのよう。でもそれでも高い。
こんなのが1000円しない形で目の前にあったら、内容がどうのこうのという以前に手を出すほか無い。ちなみにアメリカの片田舎の漁村でサーファーとして一日を送るような生活をしてるコミュニティの様子、永遠の夏のような世界を生きる人たちを写したモノクロ写真集で、表紙の裸体で浜を駆ける女性の写真は非常に綺麗なんだけど、いかんせん水面下のものが全部恐怖の対象になって、サーフィンなどしようと思ったことも無い人間には根本的なところで接点を持てなくてどうしようかと思うような写真集だった。
☆ ☆ ☆

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2015 / 10 / Olympus Pen E-P5 / M.ZUIKO DIGITAL 14-42mm f3.5-5.8
今回のはフィルムじゃない。オリンパスのデジペン E-P5で撮った写真。レンズはキットレンズ使用。
元々持ってたデジペンはE-P3で一世代前のもの、しかも唯持ってるだけでほとんど使ったことがなかったんだけど、現行機種が結構値崩れしてきてたから、またちょっと気まぐれで手を出してみた。おそらくそろそろ新製品が出るんじゃないかな。新製品が出るのにわざわざ型落ちになる古いほうを?という疑問もあるだろうけど、デジカメを新製品で買うなんていう発想が皆無な者としては、新製品が出るというのは従来機が安くなるサインにしかすぎない。
ペンといっても古いカメラのデザインを引用してるだけの普通のデジカメだから、フィルムの初代ペンを使ってるからなんていうこだわりじゃなく、手を出したのは単純にE-P3で使うために外付けの電子ビューファインダーを既に持っていたから。これがE-P5に最適化されてる、オリンパスの外付けファインダーだと一番高価になるもので、E-P3ではカメラのファームウェアのアップデートで使えるようになってはいたんだけど、自動で液晶と切り替わらないとか、解像度が本来の密度じゃなくなるとか、フルパワーの状態で使えなかった。このファインダーを完全な状態で使ってみたかったというのが、このデジペンE-P5に手を出した一番の動機だったかもしれない。
でも本来の解像度で使ってみても、電子ビューファインダーはやっぱり何かが投影されてるスクリーンを眺めてるようであまり快感じゃないなぁ。光学式のファインダーのほうが抜けが良くて断然覗きがいがある感じ。
で、相も変らずこの世界にあるなかで一番つまらない書物だと思いながら、今回は我慢してマニュアルを読んでる。
結局のところ、わたしは滝の水が白い糸のようになって写ってる、ああいうのを良いとする感覚とはまるっきり無縁なので、シャッタースピードを中心にして撮ることも無く、絞り優先の形で、絞り値と感度の設定をどうやるのかさえ分かれば、特に不自由も無く撮ることができる。マニュアルって他に書いてることは、単純化して云えば画像に追加するエフェクトのことがほとんどという感じで、でもこれ何もカメラの中でやらなくても大半がPC内部でフォトショップでも使えば出来るんじゃないかなと思う。こういうのがマニュアルを煩雑で世界で一番つまらない書物にしてるんだろう。
なんだか文句ばかり書き連ねてる感じになりそうだけど、おまけにそのエフェクトのどれもがどこか紛い物っぽい。道具だからすべては使う人次第なんだろうけど、ずらっと並ぶエフェクト一覧はイミテーションがパレードしてるみたい。オリンパスが提供するエフェクトでいうと、トイフォトだとかクロスプロセスだとか、こんなの数千円のトイカメラで、しかもデジタルエフェクトなんかに比べ物にならないくらい予測不可能なドキドキ感を味わいながら本物が撮れるんだから、なにも10万以上もするような、まぁわたしが買ったのは値崩れで半額以下になってはいたけど、そんな高価なカメラで紛い物を作ることも無いと思う。本末転倒してるぞ。ラフモノクロームも偽者感が半端ない。ボタン一つで森山大道風スタイリッシュなモノクロームを、というような趣旨だと思うけど、ボタン一つで森山大道になることの意味なんてどこにあるとひとしきり考え込んでしまいそうだ。森山大道も今はデジカメで撮ってるけど、もし森山大道がラフモノクロームを使ってボタン一つで森山大道になってたらなんて想像してみると、これはちょっとシュールな状況だろうなぁ。
46万円!!!
(追記)これを書いた後セカンドエディションが出版されて幾分手に入りやすくなった。でも初版の何十万って言う値段の桁数は、安くなったといってもあまり変わらないようだ。
日本の写真家の写真集がほとんどピックアップされてないのがいまひとつな写真集ガイド。他の写真集のセレクトもちょっと傾向がありすぎる感じがする。当然入るべきだと思う写真集がもれてしまってるのは、写真史を俯瞰するような包括的なガイドじゃなくて、出版年を限定して編集してるガイド本だからなのかもしれない。でも資料の一つとしてはそれなりに役に立つと思う。