2022/03/25
知覚の地図 XXXI 水に浮かぶ銀色の文字、すくい集めて凪は訪れる

鎖が巻かれ鍵もかけられていいるのに、中身を見たいとちっとも思わせない箱。宝箱失格。
「私は炒った豆を許さない。奴らは口の中の水分を奪っていくのだ」(ロレッタ)
日本アニメーションの父と称される政岡憲三氏によるフルアニメーション。トラちゃん二部作とのちに作られたもう一本の合わせて三作で完結となる。昔の東映アニメ、「少年猿飛佐助」や「安寿と厨子王」なんかを彷彿とさせる表情豊かで生々しくて官能的な動きのアニメは今ではあまり見ないタイプの可愛らしさを含む絵柄も絡めて目をとらえて離さない。オペレッタ形式というのも妙にマッチしていて、歌詞に出てくる「かぁちゃん」なんていう言葉にもなんだか忘れてしまっていた情動を刺激されるところがある。
ひりひりするような孤独、疎外感、そしてその独りであることを抗うでもなく我がこととして受け入れている健気さややるせなさとか、意外と胸に迫ってくるところがあって、優雅で可愛らしいアニメーションがそういう感情を増幅させているようでもある。
PS2のソフト「サイレン」の未開封品が家にある。買った時サイレントヒル的なホラー物の二番煎じ的なイメージがあったので、まぁ遊ぶソフトがなくなったらそのうち遊ぼうと思っているうちに手を伸ばす対象から外れて、そのままになっていたソフトだ。遊ぼうと思っているうちに機種がPS3に切り替わったのも影響していたかもしれない。
で、最近これを遊びたくなっているんだけど、未開封のものを開封してしまうことにためらっている。こんなに昔のソフトが要するに新品の状態で、しかも綺麗な状態のまま残っているなんて、希少価値でも生まれてきてるんじゃないかと思うと、封が切れない。どうしよう。
マトリックスの最新作を見るために、一応過去作3作品を復習がてら見直してみる。さすがに3作ぶっ通しで見てみるとかなり食傷気味で、これで最新作を見る気になれるかちょっと怪しい感じになってきた。過去3作を見てみると、一番最初のがやっぱり突出して良い出来になっているのがよくわかる。自分が見ているものが本当に現実なのかという認識論的な命題をマトリックスという舞台を使い、謎めいた語り口で見るものを引っ張りながらスリリングに描き出す。しかもその描き方が、世界設定の基本からすべて説明しないといけないこの手の面倒な映画にしては極めて適切なシンプルさで貫かれているというのがいい。これに比べると残りの二作は付け足し感のほうが強かった。続編の二作は世界を広げるために複雑化してくるんだけど、軸足はぶれるし、作っている側が持て余した挙句、最後には監督、この映画作るの飽きたんじゃないかと思わせる納め方。きっちり説明して明晰に明らかにしておくべきところも話を広げたはいいが、作っている側もあまり理解していないのか、よく言えば哲学的、でもほとんどは思わせぶりな台詞の断片で胡麻化しているような内容となり、そういうのと単純な戦闘映画がごつごつとした形のままでつなぎ合わされてる。一作目のマトリックス的な内容を期待すると三作目の大半を占める機械との戦闘はまるで期待と違ったものだったろうし、戦闘シーンを楽しもうと思ったら、意味不明な呟きみたいな台詞の垂れ流しでよくわからない世界を押し付けられるのが邪魔ってことになっていただろう。おまけに20年前当時はかっこよかった映像表現も多用されるスローモーション表現を筆頭に、ロボットのデザインなどすべての要素が今となってはどこか少しずつダサい部分を含んでしまっているように見える。緑がかった画面の色彩設計も単調で今見てもあまり綺麗なものでもない。20数年前の映画にいまさら文句云って意味があるのかと思わないこともないけれど、まぁ見直して思ったのはこういうことだった。
で、一作目で完結してるとしか思えないシリーズの、今度の四作目はさらなる続編ということになるんだけど、蛇足にまた壮大な蛇足をつけ足したものになってるのか、結果はどうなんだろうなぁ。
七河迦南「七つの海を照らす星」を読み終える。「アルバトロス」のほうは舞台を同じくした続編なんだけど、こっちはまだ読んでいない。

第18回鮎川哲也賞受賞のミステリ。虐待や育児放棄など、様々な理由で家族と一緒に暮らせなくなった児童が生活する児童養護施設、七海学園で、子供たちの間で言い伝えられている、いわゆる学園の七不思議と云ったものの謎の解明が主軸となって展開する七編の短編で構成された短編集。児童養護施設で起こることが日常であるかどうかはさておいて、いわゆる日常の謎系のミステリで、観察者の主人公の話を聞いて真相を探り当てる探偵役の人物もこの類のミステリに登場するテンプレのような人物。さらに、各短編が最後の短編で結びついて思いもかけなかった絵が現れるというのもこの手のミステリのお約束的な展開となっている。よくいうなら手馴れているミステリの書き手による危なげない作品、斜に構えていうなら、型にはまったどこかで読んだことがありそうな印象の短編集と云ったところか。これでデビューだそうだが、新人らしい、いったい何をしでかすかわからないというような破天荒な部分はまるでなく、そういう意味ではきれいにまとめているだけで新鮮味のない本であるのかもしれない。でも、このタイプのミステリの定石でもある、各短編が結びついて最後の短編で見えてくる隠されていたもう一つの真相の仕掛け具合は、この手のミステリを読みなれたかなりすれっからしのミステリ読みでも結構驚くだろう。
各短編の中心となる謎は正直なところそれほど興味をひくようなとんでもないものでもなく、最初のうちはあまり謎めいたという印象を与えない、というかどうなってるんだと頭をひねり途方にくれる前に子供たちの心の動きなんかに紛れ込んでいつのまにか解決してしまってるというような淡白な印象のものが続く。七不思議と云ってもホラー物のような展開は見せずに主眼はあくまでも子供たちの心のありようであり、その心がとった行動が図らずも謎めいた形で表れてしまったという形にとどめている。謎そのものは結構古典的なトリックを使い、舞台の特殊性の中で見せ方を工夫しようとしていて、古い手順であることを悟らせずに新しい装いを着せてしまうお手本のような仕上がり具合になっている。
決して出来が悪いんじゃないけど目新しい感じも受けずにミステリとしてはどこか食い足りない。総じてそういう印象の短編でしばらく展開し、さらにこれは絶対に映像化できないなぁ、映画にしてと頼まれたら監督は困るだろうなぁと云った、余計なおせっかいに思いをはせてしまう読後感の一編や、この本の中で唯一後味の悪さで印象に残る話なんかを織り込んで、やがてそれまでとは際立つ印象の一編が現れる。この話で語られる、行き止まりの非常階段の上で少女が消失してしまうという謎はイメージ的にも鮮やかで、それまでの数編をはるかに抜きんでていて興味を引く。夏の合宿、ほかのみんなはキャンプに出掛けてるものの、体調を崩して合宿所に一人残った少年の前に現れる見慣れない少女。その少女と過ごすつかの間の夏の日々。やがて少女は少年を残して行き止まりの非常階段の上から姿を消す。少女が消えてしまった後で、合宿所にいた学園の職員に尋ねてみても、そんな少女は見たこともないという返事しか返ってこない。存在していた痕跡さえも少年の心の中だけに残して消えてしまった少女との幻のような夏の日々と、非常階段の上からまるで夏空に飛び立っていった鳥のような美しいイメージが重なって不思議な印象を残す。これは手の込んだ解決編も見事だった。
もう一つ気に入ったのは、これが一番怪談っぽいんだけど、少女が六人で入ると中ほどでどこからか七人目の少女の声が聞こえてくるというトンネルの話。ミステリ的解決の後では怪談の雰囲気は霧散してしまうとはいえ、それまでは雰囲気一杯に楽しませてくれる。それと別格として驚愕のラストの一編。作中で、特定の星を選んで線で結んでいくと、それぞれの星とはまるで関係ないのに星座という絵が現れることに言及しているけれど、云いえて妙というか、まさにそんな感じで思いもしなかった形の星座が現れる。これ、気づけた人はほとんどいないだろうなぁ。
一番お気に入りの登場人物は主人公の友達で聞き上手の佳音ちゃん。たおやかで好奇心旺盛で、いざという時は行動的で、でもどこか一本抜けてるような愛すべきキャラクターだ。
戦争の細かいところは今のところ判断保留。ただ一つだけ、露骨なプロパガンダ合戦がひどいというのは皮膚感覚としてわかる。言論は片方側に圧倒的に偏って垂れ流しだし、公開される映像はとにかく偽物、作り物のオンパレードで、そのフェイクぶりがネットで暴露されてるものもかなりある。わたしが見てあきれたというか全く意図が分からなかった点で不気味でもあったのが、戦場を行く車から見た外の動画で、流れていく外の風景の中にスターウォーズのタイファイターが墜落している様子が写っていたもの。合成したものだというのは明らかなんだけど、タイファイターなんて言うものを合成して何がしたかったのか。単なる愉快犯なのか意図がまるで分らない。他にも家族と別れを惜しむウクライナの兵士の映像が過去の映画のシーンだったとか、これは動画だけど例えば写真なんて、真を写すものなんて名前がついているのが、もうまるで似つかわしくない時代になっている。映像や画像は人の考えを一定の方向へ誘導するために活用される、今や一番信用できないもの、うさん臭くて真実とは全くかけ離れた位置にある筆頭のものと判断するべきなんだろう。
我が家にやってきた本
ディヴィッド・イーリイ 「ヨットクラブ」 晶文社ミステリ
ボストン・テラン 「その犬の歩むところ」 文春文庫
クリストファー・プリースト 「逆転世界」 創元SF文庫
小松左京 「日本アパッチ族」 ハルキ文庫
水木しげる 「妖怪画談」 岩波新書
全部100円。100円以外の本はすべてバカ高いという印象になってきた。これはちょっと困る。「日本アパッチ族」は活字の小さい旧版のは持っていたんだけど、大きな活字の別版を100円文庫の棚で見つけたので。こういうの、たとえば持っている本でも装丁が変わったというだけでまた欲しくなるという場合もある。わたしの場合はムーミンの文庫がそんな感じだ。
増えた積みゲー
NO MAN'S SKY PS4
リトルナイトメアⅡ PS4
ダーククロニクル PS2