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知覚の地図 XXXV 永遠の二つ手前で、傘を差し雨を待つ極楽鳥たちの群。外套は染み出す想念を吸って重くなっている。叛乱は成就するか。

潜る道

中華ギター
アマゾンでDonnerという低価格中華ギターを衝動買い。コメントを見れば、安物まるだし、調整しても使用に耐えないと、ここぞとばかりに貶しまくってるものから、特に問題なくよくできていて、コストパフォーマンス抜群といったものまで、両極端の評価でまんべんなく割れていて、全く判断の材料にならない。高いお金を出して最初から安心品質のギターを買うならこういう風に迷いもしないんだけど、そこまで出費する気もなくて、選択肢は今のところこの安物ギター一つならば、結局質云々は購入してどういうものか実際に触って確かめるしか方法がなく、物欲肥大化に押されてここは賭けに出てみようと注文してみた。
なんと注文から二日ほどで家に届き、美味しいものを後に残しておくタイプなので未開封のまま一日ほど置いた後、期待半分不安半分、賭けの結果はどうだったかと舞い上がり気分で開封してみると、箱から出てきたのは思いのほかまともな、というか良品と云ってもいい作りのギターだった。
アマゾンのコメントで貶されていたポイントは、この人たちいったいどんなものをつかまされたんだと思うくらいことごとく的外れ。ネックは反ってもいないし、フレットの処理も綺麗。弦高は12フレットで標準的な2mmにきちんと調整されているし、オクターブピッチも狂いなく問題なし。ペグもまだら模様の巻き上げ感じゃなく、一定の重さでスムーズに動き、一日経過くらいだとチューニングもほとんど狂わない。ボディの塗装も綺麗で、外観の仕上げでただ一つ、1フレットにうっすらと汚れが付着していたのがマイナスポイントだったんだけど、これはまぁ目立つこともないし許容範囲だった。
アンプを持っていないからピックアップなどの電気系統は確認できず、ここが初期不良で壊れてる可能性はあるものの、それ以外は普通によくできてるギターだった。各部分の材質なんかで高級なものと鳴りが違うとか弾きやすさに違いが出ると云ったことはあるだろうけど、弾きやすさ弾きにくさは標準的なレベルを保っていて、高級ギターと比べでもしない限りそういうことはそもそも気になるポイントになりようもない。
ということで衝動的な買い物の賭けとしては電気系統未確認という点を除けば、もっともこの点がかなり重要なポイントであるかもしれないというのが痛いところではあるものの、総じて大当たりという結果になった。そりゃ余裕があるなら欲しいブランドの馬鹿高いギターもあるにはあるんだけど、こういう分野でやたらヴィンテージとか言う価値判断が横行しているのに反感をおぼえることもあり、そんなのちっともロックじゃない、パンクの精神好きとしては資材置き場に捨ててあったようなボロギターに弦を張ってこそかっこいいんだろうと思うほうが強かったりする。
それにしても買ってみて改めて思うのは、パンクやノーウェイブの精神は感性の奥深くに根付いてはいるものの、今となっては音楽としてのロックにはほとんど興味なく、昔からブルースにはまるで感覚を喚起されたこともないのに、いったい何を弾くために買ったんだということだ。ネットではギターの速弾き自慢のほとんどがチョーキングフルスロットルのブルース味濃厚なフレーズを披露しているが、そんなの練習したいとも思わない。買ってから気づくのは遅すぎるのか。
普通こういうギターを買うなら選択肢はストラトキャスターのタイプだと思うんだけど、わたしが気に入っていたギタリストはなぜかストラト使いがほとんどいなくて、このテレキャスターのタイプを使ってる人が多かった。だから形は昔からこのテレキャスターのシルエットが大好き。ジョン・スコフィールドにビル・フリゼール、初期のころのジミー・ペイジとか、最近だとユーチューブで路上演奏しているフュージョン系ギタリストのChutaさんとか。テレキャスターの、王道からの絶妙の外し具合というか、そのくせロックギターの芯だけでシンプルに屹立しているような姿も併せ持っているひねくれもの具合が、各自の音楽にもどこか反映しているようで、なんとも小粋な感じがする。でもこういうギタリストがお気に入りだったからと云って、では自分は目指せフュージョンとか目指せスコフィールドっていう感じかというと、そうでもないんだなぁ。



ヴィンセント・ギャロの映画「Buffalo '66」の中でシナトラ・バージョンの伴奏で歌われる「Fools Rush In」だけど、こういうのをギター・アレンジで弾いてみたい。プレスリーや同アレンジのシナトラのものよりも、このバージョンが好き。

あと揃えなけらばならないのがアンプだ。ソリッドギターなのでそのままでも音は出ても金属弦をはじく音しかしない。アンプを買うならば家で鳴らすだけなので音量に関してはその程度で十分なんだけど、最終的に耳に届く音が安っぽければ、おそらく嫌になってくるだろうし、ここは安物買いはひとまず中断して多少はお金をかけるつもり。アンプを一台揃えておくと電気化したウクレレも繋ぐことができる。ちょっとした物欲にかられたことでどんどん深みにはまり、散財期間が続く。

いつのころから始まったか日本の怪談、幻想譚を読み継いでいって、その流れは今も途切れることなく、最近は内田百閒の「冥途・旅順入城式」を読み進めている。「冥途」は1922年発刊の内田百閒の第一短編集で処女作、「旅順入城式」は1934年発刊の第二短編集となり、両方とも異界と狂気が溢れる作品集となってる。戦前を区切りとして、内田百閒としては同趣向ではこの二冊限りの短編集を一冊にまとめた岩波文庫版は最良の選択となっているだろう。ちなみに「冥途」は発表当時、世間的にはあまり相手にされなかったらしい。今回は何度目かの再読であり、その再読もそろそろあと何話かを残すのみというところまで進んでる。ただこの同趣向の二冊の短編集を読んでると、最後のほうは正直なところちょっと飽きてくる。なにしろ、結局のところ扱っている感覚は全部一緒、極端なことを云えば舞台や取り巻く状況はそれぞれの話で異なっていても、核にあるのはもう全部同じで、同じ話を延々と読んでいるのと変わらないような気分になってくるからだ。ただその核になっているものがユニークで、内田百閒にしか顕現してこないものだったりするのが特筆すべきところなんだと思う。
云ってみるなら存在の奥深くに巣くっているような不安感、後悔、盤石の現実という幻想の下で、たやすく一歩踏み誤る、身近の足元に待ち構える狂気。そういったものが通奏低音として作品の基底部分で低く鳴り響いている。その薄気味悪い通奏低音のうえで主人公、名前もなく明言されてはいないけどほぼ100パーセント無条件で男性の主人公が暗い土手の上を歩いたりやばそうな気配が濃厚な深い藪の手前で踏みとどまったり彼方に灯りの見える横道の入り口で途方にくれたりする。現実の中に異界の気配が流れ込んでくる場合もあるし、いきなり異界で浸食された現実の中に放り込まれてる場合もある。だれか分からない随伴者がいつの間にか後ろについてくるのを気づいても、誰だか知っているような気はするが、誰なのか思い出せない。思い出すととんでもない恐ろしいことが起こりそうな気がする。作品集全体を覆う感覚だけど、まるで夢の中で感じるもどかしさ焦燥感そのものだ。
全く外観が異なった全く同一の物語がそういう異界と現実を交差させ、さまざまな薄気味の悪い、あるいは病みつかれてなお超常的に美しいイメージを積み重ねていく。水鳥を追いかけて川面を泳いでいるうちに、周囲の世界を飲み込みながら、絶えることなくせりあがっていく水面と、その視界一面を覆いつくすようになった水面が空と接する間際の光景。天井まで届く巨大なガラス棚に、死んだ兵士たちが折り重なるように展示されて耐えがたい臭気に満ちた展示室。一読脳裏に焼きつくような鮮烈な世界が一話読了するたびに目の前を通りすぎていく。
「冥途」のなかで一番有名な「件」は別格として、わたしが好きなのは狐に化かされる話を童話的なほのぼのとした路線じゃなくて、逃れようのない迷路に取り込まれた悪夢として描いた「短夜」、頭のネジのすべてが抜ける寸前まで一気に緩んでしまったようなヴィジョンで締めくくる「豹」、どことなくクーロンズゲートの雰囲気を思い出させた「遣唐使」、本人も気づかないうちに狂気が忍び寄ってくる「山高帽子」、この辺りか。ぐにゃぐにゃする馬の脚と大砲の弾が一面に突き出てる前庭を踏み越えて入っていく「遊就館」や、すでに決定し逃れようのない哀しみに満ち溢れた表題作の「旅順入城式」もいい。





久しぶりにこういう話題。自分の中ではすでに結論が出てるのでその様々な側面の確認みたいな接し方になりつつある。ユーチューブの元画面のコメントの中で、多く医師同じ考えなら、ずいぶん違った世の中だったろうなと書いてる人がいて、まさしくその通りだっただろうと思う。





種村季弘編 日本怪談集 奇妙な場所 河出文庫
この前取り上げた日本怪談集は二冊で完結となっていて、これは残りの一冊。
東雅夫編 文豪怪談傑作選特別編 文芸怪談実話 ちくま文庫
東雅夫編 文豪怪談傑作選特別編 百物語怪談会 ちくま文庫
小川洋子の偏愛短編箱 河出文庫
小川洋子の陶酔短編箱 河出文庫 メルカリ等、オンラインで入手。大体みんな500円前後だったと思う。辛抱が足りなくなってきたのか、本来は長編好きのはずなのに、このところちょっと短編づいてる。
ジョン・アーヴィング 「ガープの世界」上下 新潮文庫 110円
ジョン・アーヴィング 「サイダーハウス・ルール」上下 文春文庫 110円
西部邁 国民の道徳 220円
百田尚樹 日本国紀 220円
と云いつつやたら長い本も買ったりはしてる。


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