2023/08/20
のけものたちの砦に砂時計の季節がやってくる。砂の音は砦の長い回廊に降り積もり、その音に抗うようにどこかから大声が聞こえてくる。19MMUS!

先日歯科に行った時、7,8年ぶりくらいに、温度で色が変わるリングをつけて行った。エスニックの雑貨屋で籠に盛って売られていた安物の指輪で、その直前にアクセサリー入れをひっくり返してしまって持っているのを思い出したものだ。
ところがつけて出かけたのはいいが、治療が終わって診察室を出てみるとどこかで落としてしまっているのに気づいた。家を出てから電車と送迎バスを乗り継いでやってきてるからどの辺りで落としたかなんてわかるわけない。これは諦めるしかない。まぁ安いものだからまた欲しくなったら雑貨屋に買いに行けばいいかと、でもカートなんて持ってはいれるような広い店でもなかったなと色々考えて帰路に就いた。ところが別に探すつもりでもなかったけど、帰りの送迎バスを降りて、駅に向かう路上で道に落ちてるリングを見つけた。歩きにくくてうつむき加減に歩いていて自然と目についた。リングは落とした時に路上を転がるでもなく、目の前にこれ見よがしに落ちていて、拾ってみるとまさしく色の変わるリングだ。こんなヒッピーリングをつけてる人が自分以外に都合よく落としてるとも考えられず、自分のものに間違いなさそうだった。熱い路上に長時間接していたせいか、あるいは踏まれたせいか色の出方がちょっと汚くなっていたけど、ともあれ絶対見つからないと思っていたものが再び自分の指に戻ってきてラッキーと舞い上がった。
舞い上がった気分で駅に着くと目の前に乗るべき電車がやってきていて、改札を通った足でそのまま電車に乗ろうと思ったら、乗り口で派手に転倒してしまった。ホームと電車の段差に脚を取られたようで、完全に車両の床に伸びてしまい、持っていた荷物は周りに飛び散らかしてる。近くにいたおじさんと女の人が起きるのに手を貸してくれて、周りに散らばった荷物をかき集めたあと座席に座ったんだけど、やってしまったとドキドキしたのがなかなか収まらなかった。
ドキドキしたまま怪我でもしてないか確認してみた。転倒した勢いでなんとリュックが肩越しに背中から胸元に移動して、これがどうやらクッションにでもなったのかどこも痛くなったところはない。顔を打って今治療してきた歯を台無しにすると云った最悪の事態にも見舞われてない。派手に転倒したわりに、電車内の視線を集めた以外は何の影響もなかったのはラッキーだった。
この日はこのように二度の幸運を体験した。でもその前にリングを落とすというのと転倒するという二つの不運を体験している。
まさしく禍福は糾える縄の如しの日だった。結局何も起こらないことが最も幸運だったわけだけど、この考えは若干違和感を覚えて居心地が悪い。本当に何も起こらないことが至上の幸運なのか。
たとえば普段の道を普段通りに歩いていて、目の前を歩いていた人に横合いから車が突っ込んできたとする。一寸のタイミングの
違いで自分が遭遇したかもしれないと思うと、これはラッキーなんだけど、自分の行動にはまるで変化はなくても、外的要因でその吉凶がどこかで決まってしまってる。せめて自らの行為が幸運に結びつくようにならないものか。
映画「Fall」を見る。これは高所恐怖症だとまず画面をまともに見てられないだろうな。地上600メートルの鉄塔の上に上ったはいいが梯子が崩落して、頂上の小さな足場から降りられなくなる話だ。一つのシチュエーションに限定して、、絞り込んだテーマに先鋭化するその割り切り方が潔い。舞台は地上600メートル上の、人が三人も立てばめいっぱいの狭い足場で、登場人物はクライマーの女性二人と、絵にかいたような低予算映画だけど、そのそぎ落とした状況がむしろシェイプアップした勢いを生み出しているようだ。それにしても高所の恐怖一点に絞り込んで、このえげつないほど制約を課された状況のもとに100分近くある映画を成立させたシナリオの力技も結構すごい。結局こんなとんでもない場所に立たされて自力で降りられない以上結局やれることはシンプルにただ一つ、地上の誰かにここにいることを知らせること、このただ一つの可能性を巡って考えられる限りの試行錯誤が、立ってることだけで眼がくらみそうな場所で繰り広げられる。高所を舞台にする発想と足がすくむような効果的な演出、そしてこのパワーのある脚本を加えで、際立って勢いのある映画になってる。
物語の最後近くにツイストが一つ用意されてる。中盤過ぎたあたりで、一瞬あれ今のどうして?と違和感を感じる箇所があって、これがこのツイストの伏線になってる。他にもなぜあの時水を飲まなかったのかというのも伏線だなぁ。小さな齟齬が頭の隅に引っかかって、これがツイストの正体で解消されるのはやっぱりちょっとした快感だった。
ジョージ・A・ロメロの有名な映画の、トム・サビーニによるリメイク版。
ダウンロードして、字幕サイトで拾ってきた日本語字幕と一緒に動画ソフトへ放り込めば字幕付きで見られる。
https://subscene.com/subtitles/night-of-the-living-dead-1990
YOUTUBEに上がってた映画なんて適当だろうと思ってたら、この字幕とタイミングがあってた。