空蝉の木の影 / Anne Sophie Merryman - Mrs. Merryman's Collection

黒い雲が飛ぶ壁





配管の曲がり角






工事展望

2016 / 08
2017 / 07/ 05
Canon Demi EE17 / Olympus Pen EES-2 / Konica EYE
Kodak SG400 / Fuji 業務用400 / Fuji 100

季節が終わるまで毎回書いてそうな気がするけど、とにかく暑い。体の中から溶け出して、汗と一緒に気力も何もかも流れ出ていってしまう。このところ見つめるのは体の中に空虚に空いたからっぽの空間ばかりだ。
周りを埋め尽くす蝉の声を聞きながら、己が空虚を覗き込んでいると、空蝉なんていう言葉が立ち上がってくる。
空蝉っていうのは夏の季語で、もちろん蝉の抜け殻をさす言葉だけど、人の住む世、いうならば現実を表す言葉でもあるらしい。
昔の人はこの現世がからっぽの空虚な世界だと看破していたということなんだろうけど、なかなか侮れない認識だと感心する。
この言葉から木の幹に留まる抜け殻とおそらく世界樹のようなイメージが合わさって、無限の蝉の抜け殻をびっしりと纏わりつかせた巨大な木が頭に浮かんだ。
どこかへと溶け出したからっぽの空間を体の中に抱えて、その空蝉の世界樹の元に佇んでる。夏の暑さにへばりかけてイメージするのはそんな世界。写真に撮れるものなら撮ってみたいところだけどね。

まぁそんなことを云っていても始まらない。からっぽならわたしの中の空っぽの写真を撮り続けるほかないだろう。
先日撮り終えた写ルンですの現像をフォトハウスKに頼みに行った時、ハーフサイズで撮ったフィルムもCDに出来るようになりましたと教えてもらった。今まではハーフサイズのネガは同時プリントをしないなら、インデックスも作れずに家でスキャンするほかなく、36枚撮りで撮っていたら倍の72枚をスキャンしなければなかった。あまり上手くスキャンできないわたしのスキャナーではその作業はストレスかかりまくりだった。だからCDを読み込むだけで全部取り込めるとなると、これは本当に助かる。
で、どんなに便利になるのか体験したくなり、ものは試しにと久しぶりにフィルムを装填するのはハーフカメラにすることに決めた。
フィルムを詰めたのはキヤノンのデミEE17。今回の最初の写真を撮った、そこはかとなく調子の悪いハーフカメラだ。
27枚撮りのフィルムだったので撮れる総数は最低でも54枚。この気分だと全部撮り終えるのにひょっとしたらこの夏中かかるかもしれないと、装填した直後にやっぱり普通のカメラのほうが良かったかなと思ったけど、まぁそれもいいか。暑さにへばりかけて集中できないような時に、あまり考えずに流すように大量に撮るのも空虚さを埋めるリハビリになるかも。

2枚目の写真はちょっと奇妙な触感を狙ったものだった。そして奇妙な、まるで異界からの通信を傍受してしまったような不思議な感触を残す写真が並んでるのが、今回の「Mrs. Merryman's Collection」という写真集だ。

☆ ☆ ☆

Anne Sophie Merrymanが亡くなった祖母であるAnne-Marie Merrymanから受け継いだポストカード・コレクション。一度も会ったことのなかった祖母とそのカードを仲介して邂逅したAnne Sophie Merrymanは、そのポストカードのイメージを編集して一冊の本に仕上げた。1937年から1980年の間にAnne-Marie Merrymanによって集められたポストカード・コレクションにはどことも分からない異国の奇妙なイメージが数多く封印されていた。

メリーマン1

メリーマン2

メリーマン3

といった背景がある写真集なんだけど、この本は策略に満ちてる印象で、こういう成立過程も文字通りに受け取る必要もなさそうな気がする。
それはともかく、ポストカードを集めることで世界を旅してる気分を味わっていた古い時代の女性と、今や何時どこで写したかも分からなくなってるような古びたポストカードという、そういう有様が写真に想像力を広げる余地を生み出してるのが手に取るように伝わってきて、これはとても面白い。
そういう魅力的な背景に乗って展開されるポストカードの写真は、通常思い浮かべる観光地写真の範疇を大いに逸脱して、夢のように風変わりでサイケデリックなイメージで溢れそうになってる。この世界とは明らかにずれを生じているようなその写真群は、時間の彼方から届いてくる、意味の形も取れなくなってるようなかすかな囁きも伴って、まさに異界の扉が開きかけている状況を活写してるようで、目を惹きつけ、心が騒ぐ。
これは本の形で展開してるものだけど、実際に一品ものとしてAnne-Marie Merrymanが所持していたポストカードとそれを詰め込んだ古いトランクも存在していて、まるである種のオブジェ作品のような佇まいで写されてる写真も見たことがある。その圧倒的な事物感はおそらくこの心が騒ぐ感じを増幅して、異界からのささやきもまた本よりも生々しい感覚として迫ってくるんだろうと思うと、この実物も一度見てみたいものだと思う。

メリーマン4

それでこの本、ばらすのも無作法なので何とは云わないまでも全体に策略に満ちているのに加えて、もう一つ物理的な仕掛けがあり、最後の二枚のページが赤い糸で縫い合わされてる。これを解くとちょっと驚くような何かが出てくるらしいんだけど、実はもったいなくてこの赤い糸、未だに解いてない。こんな仕掛けは実際のところ有難迷惑そのもので、わたしの気性としてはこういうのはそのままにしておきたい気分のほうが先に来る。
だからこの糸でとじてある秘密についてはわたしは未だに何なのか分からず謎のままになってる。ここまで放置しておいて期待値をあげた後では、実際に開けてみたら何だこんなものかと思うに決まってるから、今ではなおのこと謎を白日のものに晒せなくなってしまった。













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コメント

No title

「空蝉」って私は能を思い出すのよね。

なのでタイトル見て写真見たとき
「すごい的を得てる」ような気がした(笑)

古語の「現人(うつしおみ)」が訛ったもの。転じて、生きている人間の世界、現世。
セミの抜け殻より、ずっとしっくり来ると思うわ。

夏って子供の頃はもっとキラキラしてたイメージだけど
大人になるって嫌ね。
私も同じ様に空っぽで木陰を探している。

No title

工事中の隣のビル
特に気にせず何かを語り合う人たち
静かな時間が見える写真だわ
写真の中の写真の痩せた犬に目がいってしまった
田んぼアートのダイアナはやっぱり美しかった。

ROUGEさんへ

こんばんは!
能ですか。わたしはほとんど知識がないかな。でも多少の印象は持っていて、シンプルな舞台をあらゆる場所へと変貌させる観念的な芸能って云う感じ。シンプルで観念的って云うのは写真でもわりと気を引く要素かもしれないです。反対に密集してる細部とかごちゃごちゃしてる混沌も好きなんですよね。要するに極端なものが好きと、そういう感じなのかもしれないです。
今回のはシンプルなタイプのほうですね。
一応ね、子供の頃に住んでいたのは壬生寺の近くで壬生狂言は身近にあったんですよね。だからこういう古くからある日本の芸能にもあまり違和感感じてなかったりします。
確かにわたしも夏の楽しいイメージはほとんど子供の頃の記憶が元になってます。歳を重ねるにつれ体感的な夏は耐えがたくなってきて、記憶の夏を追い求めても本当に無駄だと思い知らされるのが当たり前になってきました。まぁ自分だけが歳くっていってるんじゃないのが多少の救いではあるけど、本当に歳を重ねるって嫌ですよね。
それにしても今年の夏は本当に駄目。もう暑さでくらくらしながらでも今まではカメラ持って外に出てたけど、今年はあまり歩き回る気にならないです。何とか写真撮って行きたいんだけど、夏の間に何枚くらい撮れるかなぁ。

蝉の殻に、例え語呂合わせに近かったにしても、この世界を見るって云うのは面白い発想だなと思いました。書いてる内容が随分と悲観的になったからどうなんだろうと思ったけど、共感してもらえるところがあったようで良かったです。多かれ少なかれ誰もが心のどこかに空虚さを持ってるのかもしれないですね。

みゆきんさんへ

こんばんは!
ここちょっと不思議な場所だったんですよ。明らかに展望ルームで壁面をガラス張りにしてるのに、窓から見えるのは工事現場。わたしは工事現場とか好きだしこんな角度から見られるなんてまずないからちょっとうきうき気分だったんだけど、ここに来る人全員が工事現好きとは限らないし、外を展望してもあまり面白くないんじゃないかな。しかも暫く後に行ってみると現場全体にシートがかけられていて、その工事現場さえ見られなくなってました。
確かに工事現場の写真だけど音があまりしない静かな場所っていう印象ですよね。静かな場所っていうのも写真のテーマとしては面白そう。要するに音が聴こえてくる、あるいは聴こえてこない写真。撮ろうとして撮れる写真でもなさそうだけど、偶然にそんな感じの写真になってれば面白いです。
ポストカードの写真は本当に不思議な写真がいっぱい入ってました。これは首を異様に曲げたポーズなんだけど、これだけで得体の知れない雰囲気が出てきてるし、ちょっとしたことで醸し出される雰囲気を確実に捉えるって云うのは写真撮る人の才能なんだなと思います。
結構行動派ですね。わたしは今年の夏は本当に駄目です。もう歩き回る気がしないもの。興味のあるテーマで美術展でもあれば行動する切っ掛けにでもなりそうかなぁ。せも特に凄そうな展覧会の情報も目にしないんですよね。

No title

こんばんわ

ほんとに暑いですね。

年々夏の暑さが増していってるような そんな感覚を覚えています。
ただでさえ暑いのに加えて、車のエアコンのガス供給用配管の破損でエアコンなしで毎日買い出しで行ったりきたり ボディ色も黒だから、焼けた鉄の容器の中にいるようで 窓をフルオープンにして走ってます。

Anne Sophie Merrymanのポストカードコレクション
耳を傾け 音を感じ取っていくと、
会ったことのないお婆ちゃんと彼女を繋ぐ次元空間を通って憧憬の世界が垣間見えるような そんな作品ですね。

ももPAPAさんへ

おはようございます。
もう嫌になるほど暑いです。このところ外の世界は35度越え、部屋の中でもエアコンつけないと32度なんていうとんでもない気温だし、エアコン無しで家の中で熱中症になってる人もいるなんてニュースみても、嘘だろうなんて思わなくなってます。
車はエアコンなしだと無理なんじゃないですか?我慢の限界を超してません?
もうとにかくこの不快な季節が早く過ぎて行ってくれるのを期待するばかりです。写真もちっとも撮りに出かける気にならなくて何とか気分を盛り上げる方法を画策中ですけどさてどうなるか。
見出された写真って云うのもロマンティックな要素があって、この写真集の写真はいろんな物語が上手く絡み合ってるんですよね。だから見てる側には本当に色々と想像できる余地があるというか。まぁ写真だけで勝負しようとすると雑音になるかもしれないけど、こういうのもなかなか楽しいです。
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