2018/01/19
夜が聴いている / ヤフオクの顛末




2017 / 07 浜大津、近所
2011 / 05 難波
Nikon Coolpix S9700 / Contax TVSⅡ
fUJI Reala Ace 100
昔山田風太郎の小説のタイトル「夜よりほかに聴くものもなし」を見て、夜を聴く対象にするのか!と山田風太郎の外界認識に感心したことがあって、まぁ実際は夜は聴いている主体であって対象ではなかったんだけど、今回の写真を眺めていてそんなことが頭に浮かんだ。もっともこの詩的な言葉は山田風太郎のオリジナルじゃなくて、ヴェルレーヌの詩の一節から取られたものらしい。さすがに詩人の感性だ。
☆ ☆ ☆
先日バスに乗ろうとして、たまにしか来ないバスの待ち時間の間近所にあったブックオフに行こうとした時、とある店先に並べて置かれていた幟の一本が風に倒されてるのを見つけた。かなり風の強い日だった。何気なくその倒れた幟を見てみると、くしゃくしゃになった布を巻きつかせて向こう側に倒れてる幟の支柱の真横に、少し間隔を置いて立っている隣の幟の影が少し角度をつけた並行状態で手前に落ちて並んでる。これがね、一目見ただけで絵になってると思った。
並行に近い形で、でもちょっとニュアンスを含んだ角度をつけて、冬の陽光が照り返す白い地面の上に並ぶ、延びる方向が真逆の二本の支柱のライン、片方が実物のラインでもう一方が逆光でできた影のラインという質感の違い。倒れた支柱に地面の上でくしゃくしゃと纏わりつく実物の幟と狂ったように風にはためいてる様子を窺える幟の影、こんな風ないろんな形のコントラストが絡み合って目の前の空間にバランスよく治まってた。
ところがこの日は色々と行くところがあって、カメラを持って出かけなかった。だからこの二本の幟の様子を見てもこの時は残念ながら写真に撮れなかった。
しまったなぁ、こんな時に限ってこういうものが視線にひっかかってくるんだよなぁと思ったんだけど、何を思おうとカメラを持ってきていなかったので何も出来ずに、後ろ髪を引かれながらもその場を通り過ぎてブックオフに向かう他なかった。
結局暇つぶしのブックオフでは100円コーナーで見つけたら買おうと思ってリストにしてある本は何も見当たらずに、程なくバスに乗るべくもと来た道を戻ることになった。バス停に戻る道でさっきの幟が倒れてた場所までやってきてみると、わたしがブックオフで暇つぶしをしてる間にどうやら前の店の人が倒れた幟を立て直したようで、さっきの絡み合ったコントラストの光景はどこにも見当たらなくなってしまってた。
要するにその日のその時間に暇つぶしをしようと思いついてたまたまそこを通り過ぎた時に、たまたま幟の一本が倒れていたために偶然目にすることが出来た、一瞬だけこの世界に出現した絡み合うコントラストの光景だったわけだ。こうなると逃してしまったという感覚はかなり大きくなってくる。カメラを持ってこなかったという判断ミスはこの日一日中わたしのどこかに後悔として引っかかり続けることになった。
かといってカメラ持ってる時は大して撮りたいと思わないようなものばかりが目についたりするんだなぁ。見つけても撮れないという状況が逆にカメラがあれば絶対に撮ってるのにと思わせるものに視線を向けてしまう強い刺激にでもなってるかのようだ。
☆ ☆ ☆
この前の記事で年末年始にヤフオクに夢中になっていたと書いた、その顛末。
大晦日にTVつけるのも忘れて競り合いの動きを見ていたものと、この前の記事を書いた時に入札しようかと迷っていたものの2件で、アイテムは両方とも服。どちらもコートの類で大晦日のは軽めのカーディガン風のもの、もう一つのほうはツイードの重厚なタイプのコートだった。重厚なほうは、ディテールはオーソドックスなフード付きのコートだったんだけど、風をはらむように長くゆったりしたシルエットがまるでどこかアジアの遊牧民が着てそうなイメージでかっこよかったんだな。この遊牧民風コートのほうはオークション終了手前であっという間に3万超えて、もう洋服にそんなお金を出す気になってないものとしては早々に撤退気味の気分になり、争う気も失せた途中からは嫌がらせに値段吊り上げの入札を数回した程度で終わった。結果は確か3万6千円くらいで落札されたんだったかな。キルトの裏地付きで、厚手ツイード生地を目一杯使ったようなコートの値段としてはわたしが服に出せる価格を超えてはいたけど、これでも随分と安かったかもしれない。
大晦日のは1600円ほどで大して競ることもなくこちらに落ちてきた。ところがこれ、家に到着してポケットを探ってみればなかに何か入っていて、何だろう、何か値打ちのあるものでも入れたまま忘れてしまったのかと思いつつ取り出してみると、これがなんと使用済みのマスクなんていう代物だった。
こんなものが入ってたなんて驚愕ものだ。あんたが入れたんだろうと言われても反論できないぞと思いながらも、出品者にどうしても一言いいたくて、こんなものがポケットに入ってた、こういうところもチェックしたほうがいいと思うよ、みたいなことを書いて返信したら出品者から即座に返事が返ってきた。その返事にはお詫びの言葉と返金するということが書かれてた。送ってきたコートはどうするかと尋ねてみたら、もうこちらのほうで処分するなり何なりして欲しいとのこと、返品は必要ないということだった。
結局返送しなくてもいいといわれたものの、使用済みマスクが入ったコートはもう着る気をなくしてしまって、年末年始に動向を見ていたヤフオクは収穫ゼロという結果に終わった。まぁお金を使わなかったっていうのが冷静になってから思う一番の収穫だったかもしれない。
カメラのオークションはこのところ手を出してない。当方素人なので動作確認できませんでしたなどと書いてあるのは、まず間違いなく壊れて動かないということの別の表現だと気づいてしまったからにはもう好奇心だけでは手の出しようがない。
そろそろ出品者側にも回ってみようかな。
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コメント
No title
私なら、そうしちゃう。
以前、古着屋で爪楊枝が入っていた事あったよ(^^;
大晦日は忙しいから入札少なかったのかな?
今度、狙ってみようかな。
今日の写真はどれも素敵。
最初のはイルミネーションみたい。
2018/01/19 11:13 by ROUGE URL 編集
No title
まるで本の表紙だわ
しかもミステリーの
ど感動!!!!
2018/01/19 13:41 by みゆきん URL 編集
ROUGEさんへ
何かちょっとケチがついたっていうか、着ようとする気分を若干削がれたような気分になって。でもただで手に入れたという幸運も感じてるから気分はちょっと複雑です。爪楊枝はないなぁ。誰かが直接口に入れたものとなると拒否反応は半端じゃなさそう。
まぁものが1600円だから気分優先になってるけど、これが何十万もするようなものだったら、おそらくマスクは見なかったことにするに違いないと思います。
大晦日の日が変わる直前に終了時間が設定されてました。確かにオークションそのものにあまり参加してる人はいなさそうだけど、まるで大晦日の雰囲気なかったから、やめたほうがいいかも。ものにもよるだろうけど商品を得た満足よりもお正月前の気分を味わえなかったほうが損してるかもしれないですよ。
夜の写真は何だかそれだけでちょっとグレードアップしてるようなところがありそうだけど、やっぱり雰囲気がないとただの暗いだけの写真になるかもしれないので、そういう夜の手触りのようなものを掬い取ろうとして撮ってるのは面白かったです。
最初の被写体の正体は結構説明しにくくて、明るいところでも撮ってるからそのうち正体を明かしてみるかな。
2018/01/19 21:01 by 薄荷グリーン URL 編集
みゆきんさんへ
みんなそれぞれどこか視線に引っかかるような仕上がりになってるでしょ。
自分の写真の際立ち方の判断する時によく本の装丁に使われたらどんな感じだろうとか、頭の中でシミュレーションしたりすることがあります。それで引き立ってるような感じだったら、写真にもそれだけの視線を引く要素が生まれてるんじゃないかと思うんですよね。自分の写真の出来を判断する一つの方法だと思うけど、今回のはそういう感じで引き立つ部分がそれぞれうまれ出ていたのかもしれませんね。
二枚目の建物の夜の玄関なんかはミステリに似合いそうな気がします。同じように装丁で使えそうな写真と云ってもロマンス小説の表紙になりそうなものなんてわたしの写真の中には何一つなさそうなところを見ると、ミステリ好きの資質が無意識にでも写真に出てきてるということかも。
2018/01/19 21:16 by 薄荷グリーン URL 編集
No title
1.未だ捕まっていない切り裂きジャック
2.ピンクのウサギ
3.チョーさんをひっかけようとしている加藤茶
2018/01/21 17:32 by sukunahikona URL 編集
sukunahikonaさんへ
これでも難波の片隅に生まれていた光景でした。まぁ、大阪自体どこか無国籍風という要素はあるとは思うけど。
紐の先には何があるのか、誰がいるのか、色々と想像してみるのは楽しいですよね。わたしの好みで云うとこの中だと1か2ってところかな。ピンクのウサギがこの紐を引っ張って椅子をどこかにやろうとしてたなら、わたしは絶対についていくと思う。
切り裂きジャックってほんの一時期この世界に現れて、その後闇に姿をくらましたんですよね。ただの殺人鬼なんかは、じつはそれほど興味を引かれはしないんだけど、この一時期だけ闇が開いたような出現の仕方が謎めいていて面白いです。服部まゆみとか切り裂きジャックをテーマにミステリ書いてるけど、日本だともう一つ身近に感じられないところがあるような気がします。当然これが紐を引っ張っていたら絶対についていきません。好奇心が発動して一応正体は知ろうとするかもしれないけど。
2018/01/22 11:53 by 薄荷グリーン URL 編集
No title
2018/01/23 17:03 by カノッチ URL 編集
カノッチさんへ
わたしの印象はそんな感じです。ジャンクカメラなんかでも外側綺麗だったら何か動きそうなんていう根拠のない希望的観測で手に入れてみて、まさしくジャンクそのものだったっていう経験を何回かしてるし、その同類なんじゃないかな。確かめた範囲では動きますなんて言う書き方にしただけで入札数は増えると思うから、あえて動作未確認なんて書いてるのはかなり怪しいですよ。よくカメラ屋のジャンクコーナーのカメラをまとめて買ってる人がいるけど、ああいう人がそういうところで仕入れたジャンク品をそのまま、あるいはちょっと手直しして一見まともそうに見える形に整えてからオークションに出してるんじゃないかと疑ってます。
どんなものがやってきても自分で修理できそうだったら買ってみてもいいけど、失敗する確立のほうが高いと思ってます。
中古屋で整備品を買うのが一番安心なのは分かっていてもさすがにオークションは物欲の伏魔殿、珍しいものが出てたらやっぱり気を引かれますね。
2018/01/24 13:22 by 薄荷グリーン URL 編集
鍵コメさんへ
本当に寒くなってきて、こう寒くなるとあれだけ辟易した夏の暑さが恋しくなってきてます。
春の生まれだから、やっぱり春の気候が一番好き。もう早く桜の季節にならないかなと遠い季節を夢見てます。
2018/01/27 22:40 by 薄荷グリーン URL 編集
No title
倒れた幟が偶然作り出した "絵"
読ませて頂いてて、時間経過の一瞬 一瞬の中で生じることって
その後、同じ状況は二度と再現不可能
ということを改めて感じます。
人との巡り合い 出会いも・・
親子でさえ その関係は永遠に続く時の流れの中での 一瞬の出来事
奇跡的な出会い 運命 というしかない そんなことを思いました。
2018/01/28 00:24 by ももPAPA URL 編集
ももPAPAさんへ
諸行無常ってところでしょうか。どうもこういう観念、刹那的な有り様に惹かれるというか、捉われてしまうというか、一瞬だけ存在して虚空に消えてしまうものに執着するところがあるんですよね。
その一瞬をその場に留めておきたいって言うかなわない希望の裏返しの感覚なのかもしれないと思ってます。
写真に惹かれるのはそういう一瞬を永遠と化すところなのかなと思うところもあるけど、フィルムを使っていてフィルムが時間を取り込んで風化していくような部分も大好きなので、この辺の感覚はわりと屈折してるかな。フィルムは諸行無常のメディアだと、何かこんな風に云ってみるとなかなかかっこいいです。
生者必滅会者定離とか、日本人にはこういう無常観は結構なじみのものなんじゃないかと思いますね。
2018/01/28 23:00 by 薄荷グリーン URL 編集