【洋画】 ウィッカーマン

観たのは1973年のオリジナル版のほうです。

ウィッカーマンというのがある装置の名前で、民俗学でもかじっていて、それがどういうものか知っていたなら、結末は容易に想像がつくと云う、タイトルとしては実に大胆なつけ方をした映画です。

一応扱いはホラーなんですが、ちっとも怖くないのも吃驚します。

この映画は容易に観られないという状況も重なって、カルト化してました。
フィルムの辿った道筋はちょっと調べてみると、まるで「メトロポリス」そっくり。

出来上がった2時間のフィルムを、撮影中にEMIに買収された、制作のブリティッシュ・ライオン社からの指示で20分ほどカットしたディレクターズ・カット版でイギリス公開、アメリカ公開のためにハリウッドのプロデューサー、ロジャー・コーマンに意見を聞いて更にカットして、最終的には87分のフィルムになったそうです。しかもアメリカでの公開はドライブ・イン・シアターでの2本立て興行に終わったとか。
その後オリジナルのネガまで破棄されてしまって、もうこの映画を観るのは不可能と思われてたら、ロジャー・コーマンのもとに送った、20分カットした99分のディレクターズカットのフィルムが発見されることになります。
カットにつぐカットでフィルムが散逸した結果オリジナルを観るのが不可能となった「メトロポリス」のように、全長版の発見はほぼ不可能みたいですが今はこの99分のディレクターズカット版を元にしたものが観られるようになってます。
それと、後年ニコラス・ケイジ主演でリメイクされてるんですが、これは評判悪いみたいですね。

ちなみに73年のパリ・ファンタスティック映画祭ではグランプリを受賞してるそうです。

☆ ☆ ☆

物語はシンプルです。ホラーとして成立してる映画ですが、でも物語のタイプとしてはミステリーなんですよね、この映画。

ニール・ハウイー巡査部長(エドワード・ウッドワード)は行方不明の少女ローワンの探索を依頼されて、少女の住んでいる西スコットランドにある孤島、サマーアイル島にやってきた。
島は領主サマーアイル卿(クリストファー・リー)によって支配されてる排他的な雰囲気の土地だった。島に上陸して港にいた島民にローワンのことを尋ねてみるとそんな娘は知らないと云ったり、亡くなったと云ったり要領を得ない。
調査のために宿を取る目的で酒場に立ち寄れば、集まってる住人は人前で平気で卑猥な歌を歌ってる。島を散策してみれば、平原で複数のカップルが隠れもせずに野外セックスをしてるのに出くわすし、学校では少女たちをまえにして男根信仰について教えている。
島はキリスト教以前の古代宗教が普及、支配しているようで、サマーアイル卿によれば、農学者だった祖父の代に土着の宗教を利用して島民を鼓舞し、土地に適合した作物を特産品にしたということで、それ以来古代の宗教が島民を支配し続けてるらしかった。厳格なキリスト教信者だったハウイー巡査部長には島の風土はモラルが崩壊したものにしか見えなかった。

「五月祭」が近づき儀式の準備であわただしくなってくるなかでの捜査はなかなか進まず、そうこうしてるうちにローワンの墓を発見。サマーアイル卿から墓を掘り返す許可を貰って、開いてみれば棺の中に入っていたのはローワンの遺体ではなくてうさぎの死骸だった。
ローワンは去年の感謝祭の主役で、今年、島は不作になってる。不作の時の「五月祭」にはいけにえが捧げられるということを知って、ハウイー巡査部長はローワンがまだどこかで生きていて、間もなく始まる「五月祭」のいけにえにされると確信し始める。

☆ ☆ ☆

観た感じ、ホラーと云うより、どちらかというとオカルトものに近いような感触です。でも「エクソシスト」みたいに派手な悪魔憑きが観られるわけでもなく、当然のことながら殺人鬼もモンスターも出てきません。
物語を進めてるのはハウイー巡査部長役のエドワード・ウッドワードと、クリストファー・リーのほとんど2人で、あとは島民のみというシンプルな人間構成。シンプルな人間構成を元にして基本はあくまでも日常的なものを踏み外さずに進む映画でした。

ハリウッド映画を見慣れていれば、抑制が効き過ぎてるというかなんともメリハリのない演出に見えます。たとえば2人の人物が会話するようなシーンで、画面の左右の端に2人を置いて、左右から会話させるという構図を固定した画面で撮影したりする。
ハリウッドのやり方が全てとは云わないけど、こういうタイプの映画を見慣れないと、動きに乏しい映画と見えてしまうかもしれません。

この映画、殺人鬼やモンスターが出てこない代わりに、日常の風景に半身を置いたまま、もう片側を幻覚に置いてるようなイメージが出てきます。
日常的なものを踏み外さない物語の中に置かれると、こういう白昼夢のようなイメージは結構際立って見える部分もありました。
たとえば喉の痛みをとるために子供の口に生きたカエルを突っ込む母親、カエルが喉の痛みを吸い取ってくれるらしいんだけど、子供はカエルを頬張らされて「不味い」って云います。
他にも「五月祭」が近づいて村人がかぶり始める動物のマスクだとか、祭の途中で六芒星の形に組合わせた鋏の間に頭を突っ込む儀式だとか、ローワンの学校の机の中で、糸で釘に止められて、釘の周りを回り続ける昆虫だとか、墓の前に吊り下げられてる亡くなった人の皮の一部とか、少しづつ、ずれを含んでるようなイメージが時折出てきて、ハウイー巡査部長のミステリー物語の背後から不気味な印象を伝えてくるようです。こういう感じはホラー的だったのかも。

音楽も異様でした。
ギターで歌われる、ほとんどフォーク・ソングみたいな音楽で、白昼夢のようなものを隠し持ってるどことなく不穏な物語に、のどかに被さってきます。ホラーものなのにのどか過ぎて力が抜けてしまいそうな歌。
さらに音楽が出てくる時は大抵、画面に出てる誰かが歌ってるので、この映画の一部はある意味ミュージカル風とも云えるんですが、ミュージカル風というのが全体への異化効果を狙ってたんだとすれば、大成功だったと思います。

☆ ☆ ☆

宗教的な内容に関しては、頑迷なキリスト教信者であるハウイー巡査部長が異文化的な宗教を前にして、それでも自分のキリスト教的な信仰を曲げずに物事に当たろうとする時の当惑だとか、異教によって自分の信仰が相対化されそうになっていくことへの恐怖とか、そういったものがテーマなんだろうと思います。
観客のキリスト教信者はハウイー巡査部長と同調して、自分の持つ価値基準が絶対じゃないとか、信仰の揺らぎみたいなのを疑似体験して恐怖を感じるっていうことなんでしょうか。
この辺りはやはりキリスト教信者でないとその困惑や恐怖も分からないというのが正直な感想です。

ハウイー巡査部長が代表するキリスト教と云う正統の極致にあるものに対して、サマーアイル卿が体現してるセックス狂いの邪教をぶつけて、最後は邪教に勝利させるという結末に持っていくんですが、キリスト教の勝利にしなかったのがこの映画がカルトであることの証明でもあるんでしょう。

☆ ☆ ☆

ラストシーンは、これは公開当時観た人にとっては衝撃的だったと思うし、この物語の流れでも十分衝撃力を持って締めくくってるとは思うんですが、残念なことに最近同様のことを「サイレントヒル」が更に過激にやってしまったので、今更これを観ても、あまり衝撃としては伝わってこなかったです。ただ、幻想的と云う文脈でいうなら、青空を背景にして屹立してる「ウィッカーマン」は十分に異様だったし、同じく青空を背景にして燃え上がってる光景も幻想的といってもいいものだと思います。

☆ ☆ ☆

クリストファー・リーが、妙にさっぱりした青年風のイメージで出てきます。これだけでも結構意外なのに、クライマックスの五月祭の時はなんと女装して、のどかで陽気で不気味な祭の最中に踊りまくります。ドラキュラ伯爵であり、スター・ウォーズのあの重厚な人がこういうことをするのが観られるのは、ひょっとしてこの映画だけ?
さらにクリストファー・リーもこの映画の中で歌を歌うんですが、結構渋い声で上手いんですよね。こんな芸も持ってるとは思ってもいませんでした。

☆ ☆ ☆

ウィッカーマン (ユニバーサル・ザ・ベスト2008年第4弾)ウィッカーマン (ユニバーサル・ザ・ベスト2008年第4弾)
(2008/08/07)
エドワード・ウッドワードクリストファー・リー

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The Wicker Man - Trailer



原題 The Wicker Man
監督 ロビン・ハーディ
公開 オリジナルのイギリスでの公開は1973年 日本での公開は1998年


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コメント

こんばんはv-85

この前列左の女子は、確実にホラーの人ですね・・・v-39

何だか、おトイレが怖くなってまいりました(笑)

今日は、何かが出ると思います!

「ホットファズ」が、これを引用したストーリーになってましたね。アメリカで受け入れられず、イギリスで評価が高いのは納得できます。「ホットファズ」で、エドガー・ライトもインタビューに答えてましたが、独特の雰囲気のコミュニティーの事を知らないと、面白くないとか・・・

「THEM」は、同名DVDが2本あります。レンタルの際はご注意下さい。フリードキン監督の最新作で「BUG」という作品があるんですが、あれを観ると、フリードキン監督が「THEM」を挙げたのも分かる気がします。ひたすら逃げるだけの作品ですが、いわゆるホラー映画ではないです。個人的にはああいう感じは大好きです。スプラッターとかがお好みだったら薦めませんが、よかったら一度お試し下さい。

こんばんは、よーじっくです。
この映画、相当以前にWOWWOWで放送されたのを見ました。カルト映画特集だったと思います。カルトと言われると、何でもありなんで返す言葉もないんですが、作られた年代から考えて、一種のファンタジーとして見ました。"性"も"死"も"常識"も簡単に呑み込んでしまう、得体の知れない異文化(宗教的なもの)への畏怖と憧れが漠然としながら、確かに存在していた頃ですね。観て面白いとか、とは別に、この映画の存在自体がメッセージだった時代です。
そう、デレク・ジャーマンとか、もてはやされていましたね。

ともさんへ

ともさん、こんにちはv-237

この前列左の女子ですか。わたしは前列右端もそんな感じがしますv-12

トイレに何かいるって云う感覚は日本人以外にもあるんでしょうかねv-39
本当に何か怖いものがいそうで、背中がざわざわする時ってありますよねv-40
コメント有難うございました ☆

Whitedogさんへ

Whitedogさん、こんにちは。

あの島の状態はコミュニティって云う言葉でうまく纏められますね。独特の雰囲気って云うのは、わたしが半分幻想領域に入ってるようなイメージとか書いたものと近似してる部分があると思うんですが、やはりああいうのはイギリスっていう風土に根ざしていて、余所者には違和感として入ってくるんでしょうね。

「THEM」、2種類あるということで、気をつけます。間違って手を出したらそっちも面白かったって事ないですかね^^
フリードキン監督の最新作、「BUG」も覚えておきます。

コメント有難うございました ☆

よーじっくさんへ

よーじっくさん、こんにちは。

この映画一応電波に乗ったことがあるんですか。
わたしは、ミステリー、ホラーの範疇にあるものとして観たんですが、ファンタジーとして観る見方もあるというのは新鮮でした。
作られた年代って云うと、どんな感じだったんでしょうね。映画で妙に開けっ広げに出てくる性的なシーンとか、祭りのサイケデリックな服装とかでヒッピーの時代の雰囲気みたいなのはかすかに感じとれたように思うんですが。そういう時代からはちょっとずれてるのかな。
今度観る時はデレク・ジャーマンと重ね合わせるような見方で挑戦してみますね。

コメント有難うございました ☆

こんばんは^^
これニコラス・ケイジ版のリメイクは観たのですが、うーん・・・クライマックス前のニコラスの熊の着ぐるみ姿しか印象にないかなあ(笑)。オリジナルでも主人公が被りものに入るのってあるんでしょうか。
しかし、このオリジナル版の方が娯楽性は別にしてとにかく凄そうですよね。映像の古さも輪をかけていそうですが、部外者の孤独感というか恐怖感というか、そういうのがジワジワきそうな気がしますね。クリストファー・リーが気になる!
リメイク版にはそういう要素はありましたが、島の娘がリーリー・ソビエスキーだったりするので、違った観方をしたかもしれません(笑)。リメイク版の暗転直後には意外な役者が出てきたので驚いてしまいました。
オリジナル版の内容を読ませて頂き、ちょっとだけ「2000人の狂人」を思い出してしまいました。格は全然下ですけど、閉鎖的な米南部が恨みを晴らす為に北部の人間をいたぶるというのがちょっと被りました。凄いチープなんですが(笑)。

ガツンといきますよ~♪凸

umetramanさんへ

umetramanさん、こんにちは!

umetramanさんはニコラス・ケイジのほうをご覧になったんですか。わたしは観てなかったんで、どんなリメイクだったんだろうと、いくつかネットで調べてみたんですが、「何がしたかったんだニコラス・ケイジ」とまで云われてるのを見ました。
わたしはオリジナルのこれを観てる間中、ニコラス・ケイジはリーの領主役をやってるんだとばかり思ってましたけど、それも予想が外れました。リーの領主役のほうが見た目に近いような気がしたんですけどね。クリストファー・リーの持ってる貴族的な雰囲気までは出せなかったかな。
主人公は最後の方で被り物をしますけど、熊の着ぐるみじゃなかったです。島の祭りのパレードに紛れ込むために、島の住民から道化師みたいな衣装を奪って着るシーンがあります。って云うよりニコラス・ケイジって熊の着ぐるみ着てしまうんですか?!

主人公の警官の苦悩は島民の論理から来てるのに、島民は警官の苦悩なんか全く無視して島民の論理で動きますから、警官一人が余所者的に追い込まれていく感じは出ていたように思います。
でも娯楽としてみたら、テンポはぬるいし絵作りは静的だし、ちょっと苦痛かもしれませんね。これを当時観た人は娯楽として楽しめたんでしょうか。

わたしは記事のほうには書かなかったけど、何だか能天気でのどかなミュージカル風のシーンが出てきたり、裸の女が輪になって妙なポーズをとったりする場面で、なぜかモンティ・パイソンを連想してしまって、ホラー映画を観てるんだという意識と違和感有りまくりでした。

リメイク版の暗転直後には意外な役者が出てきたのって誰なんでしょうか。ちょっと気になってきました。

「2000人の狂人」、わたしも観たことあります^^
観たのはビデオテープの時代なんで、細かいことは憶えてないんですが、全体が妙に陽気な中で惨劇が繰り広げられる狂気じみた雰囲気があったように記憶してます。umetramanさんがおっしゃる内容に関してもそうなんですが、こういう雰囲気も似てるといえば似てるような気がしますね。

いつもガツンと応援、コメント有難うございます♪♪

すみません、暗転直後でなくて、暗転直前でした(汗;)
私の尺度での驚きなので、そんなにビッグな役者さんでもないと
思いますが、その役名をエンドクレジットで見た時、盛大に吹いて
しまったので、ちょっと得した気分になりました(笑)。
イギリスといえばモンティパイソンですね♪

umetramanさんへ

こんにちは!

誰なんでしょう?やはり気になります…。

モンティ・パイソンといえば「Allways look on the bright side of life」って曲が好きなんですが、これで一つ記事でも書いてみようかと思いついてしまいました。

コメントの訂正、有難うございます。
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